Y.最強のセッション


「システムチェーンジ!」
 マイクが丸みを帯びて愛嬌のあるコスモロボ形態から、戦闘に適したブームロボ形態へと姿を変える。それに伴って超AIの封印が解かれ、人間に換算すれば10歳児程度でしかなかったパーソナリティが完全なものとなる。この措置は、理論上破壊できないものはないというソリタリーウェーブを安易に使用されないための安全策だ。
 システムチェンジの隙を突いて、EI−EXの触手が迫る。しかしマイクはそれをくるりくるりと回避しつつシステムチェンジを続行する。一歩間違えればその瞬間に破壊されてしまうことは確実だが、不思議なことにマイクの心にはわずかな恐怖もなかった。この場にいるのは自分だけなのだが、なんだか一人ではないような――そんな不思議な気持ちがあった。
「バリバリーン、ターン・オーヴァー! スタジオ7!」
 自力飛行ができないマイクの外付け飛行ユニット・バリバリーンが上下逆転し、飛行ユニットとアンプの機能を兼ね備えたブームロボ専用サポートユニットになる。その上に青年のような外見の水色のロボットが勢いよく飛び乗る。
「マイク・サウンダース13世!!」
 大きく足を開いてステージに立つロックスターのような彼に無粋な武器など装備されてはいない。彼が持つのは熱いロック魂だけで充分だ。
「YEAH――! ディスクF、セットオン!」
 対ソール11遊星主・ペルクリオ戦で初めて実戦投入されたマイク・サウンダース13世最強のサウンドディスクがスタジオ7から射出され、マイクの胸にセットされる。ディスクFとはブームロボ形態でありながらコスモロボとのデュオを可能とする驚異のディスクだ。そのレーベル面にはルネが操縦しているガオファイガーが若干デフォルメされて描かれていた。
「ドカドカーンV! ギラギラーンVV!」
 コスモロボ時に使うマニピュレーターにマイク型の、ブームロボのマニピュレーターにギター型のサポートユニットをそれぞれ持って演奏を開始する。
「ウェーブ・ライザ――!!」
 弦を爪弾き、アームを回し、鍵盤を叩き、ドカドカーンVに声をぶつける。その音楽こそ、マイクの唯一にして最高の武器なのだ。
「ガガガッ! ガ・ガガガ――! ガガガッ! ガ・ガガガ――! ガガガッ! ガ・ガガガ――!」
 まずはソリタリーウェーブを照射。これは対称にその固有振動を叩きつけて容易に破壊するという、恐るべきものだ。マイクは自分に迫る触手を優先的に狙ってギラギラーンVVをかき鳴らす。これを浴びた機械と肉の混合である触手の機械部分はその動きに従ってベコベコと歪んで機械油やケーブルを撒き散らし、肉の部分は筋繊維に沿ってバリバリと裂けてゆく。
 くるりくるりとEI−EXの攻撃をかわしながらギラギラーンVVを弾き続ける。
 ソリタリーウェーブライズ専用のディスクXのように厳密に対象を計測して作成されているわけではないので効果は薄い――ディスクXならばソリタリーウェーブが届く範囲の対象物質のみをすべて粉砕できる――のだが、ディスクFにおいては問題にならない。ディスクFにおけるソリタリーウェーブはあくまで過程であり、その真骨頂はここからだ。
 EI−EXはためらいもなく自らの表面組織を根こそぎ引き剥がす。それを支柱のようにした機械で持ち上げ、本体とマイクの間にかざす。サウンドウェーブを遮るための遮蔽物を作り上げたのだ。
 しかし、本当の音楽とは耳を覆うくらいで聞こえなくなるような薄っぺらなものではない。
 聴かせてやろう、さらに熱い、全力で燃え尽きるようなライヴを!
「天国のマイブラザーたち、マイクに力を貸してくれ!」
 対機界原種戦で次々と倒れていったマイクの12人の兄たち――マイクは一瞬とて彼らのことを忘れたことはない。天国にいる彼らに助力を願う。――無論、彼らの答えは聞くまでもない。
『オーケー、13th! 俺たちも一緒に演奏するっぜ!』
 マイクは、確かに聞いた。そして見た。自分の周りに、自分と同じ姿の12人がギターを構えて立っているのを。1stから12thの頼りになる兄たちだ。
 彼らは誰が先導するでもなくかつてと同じように垂直の円陣を組み、心のたぎりを音楽として叩きつける。
「ガオファイガ――!! ガ――オファ――イ――ガ―――!!!」
 底抜けに力強いシャウトが宇宙空間に響き渡る。本当の音楽というものは小手先の技術やのどではなく、腹から絞り出す声と感情で演奏する。その点、この演奏は空前絶後にして究極のライヴだ。
 勇者を讃える血沸き肉踊る演奏とともに照射されるのは、金色に輝くガオファイガーを模したグラヴィティショックウェーブ。つまりソリタリーウェーブを叩きつけて構成を弱体化させ、超重力によって光にまで分解する――GGGの強力な攻撃手段であるディスクXとゴルディオン・ハンマーを交互に使用しているのと同じ効果を単機で生み出すのだ。
 ――いや、単機ではない。久々にマイク・サウンダース・ナンバーズ13機揃っての演奏だ。
 心が震える。ピッキングに力がこもる。シャウトが喉から迸る。演奏がどんどん力強くなる。
 重心を低く取り、ギラギラーンVVをかき鳴らしドカドカーンVに声を叩きつけ、のみならずリズムを取るように上半身を大きく振る。いわゆるヘッドバンキングというやつだ。
 EI−EXがかざした傘になど、薄紙一枚ほどの防音効果もない。サウンドウェーブが到達した瞬間に粉砕され、無防備な本体をさらけ出す。表皮の再生が終わっていない本体はマイクたちの音楽を受けて恐怖と苦痛に――素晴しい音楽を聴いているのだから歓喜のほうが相応しいが――わななく。
 ソリタリーウェーブを受けて構成材質が脆くなっているEI−EXは、続けて奏でられるグラヴィティショックウェーブにやすやすと屈する。その熱い演奏が届く範囲の肉塊や触手は次々に光へと変換されてゆく。まるでこの演奏に触れて浄化されてゆくかのようだ。
 マイクはそれを見ながら、うれしさと悲しさがないまぜになった感情を抱いていた。
(EI−EXを倒したら、このライヴが終わったら、またみんなとお別れしなきゃいけない……)
 そんなマイクの心を察し、12体の今は亡きマイク部隊が語りかける。
『13th、俺たちはいつも13thと一緒にいるっぜ! お別れなんて悲しいこと言うんじゃないっぜ!』
 その言葉を聞いたマイクの心の底から歓喜がこみ上げてくる。感動は体を伝わって演奏となり、EI−EXに叩きつけられる。
「みんな…オッケー! 最後のリフ、ブチかまそうっぜ!」
 マイク・サウンダース部隊の演奏はより重みを増し、力強さを増し、そして強烈な感情を持って響いた。最高の演奏技術と、それを凌駕する最高の感情。この二つは音楽を更なる高みへと誘ってゆく。
 低く、高く。重く、軽く。緩、急。それぞれがスコアには記されていない思い思いのリフを奏で、このたった一度の最高のライヴを盛り上げる。そのとき、13人のマイクたちは一人だった。誰かが奏でるのではなく、みんなが奏でる。みんなで一つの音楽を完成させる。求める音は、求めた瞬間に奏でられる。
 理想の音楽だ。
 永遠に続くかと思われたライヴは興奮と歓喜のうちに終幕を迎え、最後の音を奏でると同時に周辺からはまばゆい光が降り注ぐ。既に12体のマイク・サウンダース部隊の姿はない。
『最高だっぜ!!!』
 その言葉を聞いたマイクは感極まり、シャウトをしながらいま一度ギラギラーンVVをかき鳴らした。




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