U.150億年前


「こ、これは――! ESウィンドウ、確認!」
 自らのブースでだらだらとくつろいでいた猿頭寺耕介が声を荒げる。
「なに!規模は!?」
 ガッツィ・ギャラクシー・ガード、通称GGG長官大河幸太郎が迅速に更なる情報を求める。
「解析中です…違います、ESウィンドウではありません! 次元の歪みと時間、さらに正体不明の歪曲が確認されています!」
「どうやら、ギャレオリア彗星に近いもののようじゃな」
 横合いから獅子王雷牙博士がデータを総合して考えうる結果を報告する。
「勇者たちの修復状況は!?」
「先ほどすべて完了しました。いつでも出撃可能です!」
 整備部オペレータの牛山一男が即座に返答する。対ソール11遊星主戦でそのほとんどが大破した勇者ロボの修復は大変なものだった。いつ完了するとも知れない機体の修復が終わるまでシャットダウンしておくわけにもいかず、AIボックスだけを分離して稼動させるほどに時間がかかっている。だがその甲斐あって、勇者たちは元通りに修復された。
「よし! 総員、第一級戦闘配備! 機動部隊出撃用意!」
 大河長官の命により超翼射出司令艦ツクヨミ内でGGG機動部隊――各ビークルロボと彼らの隊長であるエヴォリュダー・ガイが出撃準備を整える。既にガイはメカライオン・ギャレオンとフュージョンしてメカノイド・ガイガーとなり、いつでも射出可能な姿勢をとっている。
「ツクヨミ前進!」
「了解! 超翼射出司令艦ツクヨミ、前進します!」
 運用責任者である火麻参謀の指示により、ツクヨミがタケハヤとヒルメから離れて前進する。
「異常ESウィンドウ、開きます!」
 猿頭寺が叫んだ直後に出現したESウィンドウは、やはり通常のものとは異なっていた。通常のものは単純な穴として観測されるが、これはまるで虫食いのようだった。通常空間を侵食し、同時に通常空間に侵食されつつも徐々に広がる。輪郭はぼやけ、ウィンドウ自体が出現したり消滅したりを繰り返している。喩えるならば、癌細胞。
 時空を飛び越えるゲートであるギャレオリア彗星に似た部分もあったが、総体として見ればやはり未知の現象だ。
「巨大質量、出現します!」
 猿頭寺の言葉とほぼ同時に現れたそれは、グロテスクな肉の塊だった。表面には人の顔のような模様や鱗、牙、触手、体毛などが不規則に並んでいる。一言で表すなら『醜悪』だが、それだけでは説明がつかないほどの嫌悪感をもよおさせるものだ。
 次に現れたものは、さらにGGGを驚かせるものだった。ガオガイガーより二回り以上も大きな――およその目算でも50メートルはある――ロボットが剣を携え、肉塊を追うように出現した。
 だが出現すると同時に肉塊の姿はぼやけて消えてしまい、残ったのはロボットだけだった。
「機動部隊、展開! 包囲せよ!」
 大河長官の命令が下されるや否や、開放型ミラーカタパルトから次々と勇者ロボ軍団が射出される。ビークルロボたちは飛行中に武装を展開し、ガイガーはガジェットガオーを装着して彼らを指揮する。完璧なコンビネーションにより数秒のうちに水も漏らさぬ包囲陣が完成する。
「あ……あのー……皆さん? なんで…僕たちを包囲してるんですか…?」
 包囲されたいかついロボットからは、その武骨さにそぐわぬ気の抜けた青年の声が響いてきた。
「わからぬか九郎。デモンベインを包囲しているということはとりあえず敵ということで間違いなかろう!」
「とりあえずってお前……そうなんですか、皆さん?」
 威勢のよい少女の声に押され気味の青年の声は、まあなんというか、ぼけっとした印象を与えた。
「いや……特に敵意はないんだけど。ですよね、長官?」
 妙に平和な二つの声の会話にすっかり戦闘意欲をそがれたガイが大河長官に問う。大河はツクヨミから広域周波数を使って返答する。
『ん、うむ。とりあえず、君たちが何者かを訊いてもいいかね?』
「えー、俺は大十字九郎。で、さっきからうるさいのがアル。この機体がデモンベイン」
『私は大河幸太郎。GGG長官だ。では大十字君。さっそく質問なのだが、先ほどの不気味なアレと君たちはどういった関係なのだい?』
「俺たちはあいつと戦ってたんだけど……どういうわけか気付いたらこの状況で」
「アレはな、人類どころかこの世界そのものを破滅させかねん化け物ぞ。敵ではないなら速やかに協力せんか!」
 その言葉を聞いてGGGの面々の表情が強張る。だがそれを音声通信で悟ることができるわけもなく、九郎とアルは言いあいを続けている。
「うっさい!話がこじれるからお前は黙っとけ!
 …まぁアレをほっとくわけにもいかないんで、解放してくれるとありがたいかなーと思うのですが…」
『了解した。機動部隊、包囲を解いて彼らとともに帰還せよ。大十字君、アル君、彼らと一緒にわれわれの艦までご足労願えるかな?』
 GGG長官として世界存亡の危機を見過ごすわけにはいかない。たとえその情報源が出会ったばかりの正体不明の二人組であってもだ。
「え? もしかしてご招待…されちゃいました…?」
「汝が話したほうが面倒な事態になってないか?」
「……うっさい」
『いやなに、心配することはない。アレの行方がわからないようだから君たちもちょっと休んだらどうか、と思っただけだよ。我々としても君たちに協力できるかもしれないからね。それでは、お茶とお菓子を用意して待っているよ』
 お茶とお菓子を用意して、などとおどけて見せたのは二人の警戒を少しでも和らげるためだ。実際に話してみなければ分からないが、彼らの持つ情報、あるいは彼らとの交渉がきわめて重大な意味を持つだろうことは容易に予想できる。よってそれを妨げる要素はわずかでも減らすことが重要だ。
 お茶会を催すというのは冗談ではなく、本気も本気だったが。


 大十字九郎とアル・アジフはGGGディビジョン艦隊旗艦・最撃多元燃導艦タケハヤのブリッジに案内された。
「えっと、さ、さいげきたげん……?」
「最撃多元燃導艦。面倒だから俺たちも大体タケハヤって呼んでるよ」
「タケハヤ、ですか…」
 まさかこんな状況で故国の神の名を聞くとは思わなかった九郎は、少しあっけにとられていた。タケハヤ――荒ぶる神だったかな。
「あっちのが超翼射出司令艦ツクヨミと極輝覚醒複胴艦ヒルメ。勇者ロボたちはヒルメで休んでる」
 タケハヤとツクヨミとヒルメ。イザナギとイザナギからうまれた三姉弟で、タケハヤスサノオノミコトは乱暴の末に中つ国に降って人と交わり、ツクヨミノミコトは夜と占いを司り、ヒルメことアマテラスオオミカミは高天原で昼を司る。命名と役割はあまり関係ないのだろうが、面白いものだ。どこかで読んだだけのうろ覚えの知識が引き出されてくる。
 しかし、ここまで自分の知識と同じ世界だと、まるでただ宇宙に放り出されただけのように感じる。その可能性は彼らが明らかに自分と同じ人間でありながら自律戦闘ロボットを建造し、容易に宇宙に進出しうる科学力を持っていることで潰えるのだが。
 二人が検疫を受けたあと、双方の持つ情報を交換するためのささやかな茶会が開かれた。GGGとしてはあまりにうまくいきすぎているように感じたようだが、それは九郎とアルにとっては素直に従うことこそが最上の策だと分かっていたからだ。杓子定規な考えで二人の行動を片っ端から律しようとする司令官、覇道瑠璃がいないこともその態度をとる一助となっている。
 どこからともなくお菓子が山盛りになった大皿と大量の茶器、果ては大きなソファとテーブルが運ばれてきて、九郎が尋問に近いものだろうと思っていたお茶会は本当にお茶会になった。ティーカップは先着順で配られたため、足りない者は紙コップで代用している。こうして、GGGが誇る最撃多元燃導艦タケハヤの普段は薄暗いブリッジは煌々と照明が点けられ、あまりにも背景と不似合いなティーパーティが始まった。
 もちろん情報交換は行われたが、それがメインというわけではなく、どちらかというと話の種にしているような印象が大きい。
「それで、君たちはどこから来たのかね」
 大河幸太郎がくつろぐ九郎とくつろぎすぎてふんぞり返るアルに問い、アルが出された菓子をほおばり――というよりもむさぼりながら答える。
 二人の向かいに座る大河長官は住む世界は違えど九郎と同じ日本人なのだが、金色の長髪をなびかせた眉の太い大男だった。しかも小ぶりのティーカップをかしげるのが妙に様になっている。
「うむ。平行世界、と言えばわかるか?」
「ってなんだそりゃ?」
 火麻激作戦参謀が胸を張りつつ首をかしげる。その疑問にはガリガリと頭を掻いてフケを飛ばしながら猿頭寺オペレータが答える。彼はIQ300を誇る天才ながら、徹底的に不衛生という欠点を持っている。恋人のパピヨン・ノワールがいた頃は清潔であったのだが、彼女が死亡して――一度は地球で、もう一度はレプリジンとしてこの世界で――からはまたもとの不衛生な生活に戻ってしまったのだ。
「平行世界という概念は古くから提唱されています。たとえば私がいまカップを取るか取らないかという些細なことでも『取った世界』と『取らなかった世界』とに世界が分岐し、平行世界が発生します」
「取り損ねるとかそもそもカップがないという分岐もあろうなぁ。とにかくありとあらゆる可能性の世界、EI−25の並列空間のもっとすんごいバージョンということじゃな」
 獅子王雷牙博士がそれを引き継いでより分かりやすく説明した。彼は70をゆうに超える年齢でありながらピンクのカリフラワーのような髪型と派手な衣装、ジェットスケボーであたりかまわず飛び回るという年齢を感じさせないバイタリティを持っている。ちなみに彼は世界中に7人の妻と28人の子を持つという離れ業をやってのけている。
「ざっと見た限り、こちらは妾らの世界よりも科学が進んでいるかわりに魔術に関してはそうでもないようだな。
 ところで、我らの素性はわかっただろうから次は汝らの番ぞ」
「ああ、これは失礼。我々はガッツィ・ギャラクシー・ガードという組織で、宇宙を救うためにこの世界、つまり私たちの宇宙からみて150億年前の世界に来たのだ。目的は達成したのだが…」
「ところが帰る手段がねぇんだよ。来たときに使ったギャレオリア彗星は消えちまったし、他の手段は思いつかねえ」
 大河の言葉を継いだ火麻参謀が両手をあげてアメリカ人のようなしぐさをする。まあ旧GGG設立前はアメリカで軍事顧問をしていたので当然かもしれないが、それでも四十路を越えた者がする仕草ではないだろう。とはいえ、髪型が緑のゴジラモヒカンのこの男には常識など当てはまらないのだろうが。
「で、お前らはどうやってこっちに来たんだ?」
「ああ…まあ言ってしまえばただの偶然だな。先ほどの化け物が『魂の射出』という魔道書を使おうとして、妾がそれに介入した。それによって落とし子と『魂の射出』、それに妾の力が合わさってこの世界につながる門が開いてしまったようだ」
 それを聞いた火麻参謀はふーん、とうなるだけでまったく理解していないようだ。九郎たちはそれを見て、この明らかに直情径行なマッチョ男を参謀にしているGGGはどうかしていると思った。
 まあ火麻の態度はいつものことなので大河を始めとする皆は気にも留めていない。大河が次の質問をかける。
「機体に関してはどうかね?」
「先ほどざっと見せてもらった限りでは、設計思想や使用している技術が違いすぎるのでお互いのテクノロジーを参考に流用することはできません。第一、飛行ユニットを始めとする兵装そのものが……その、魔術で構成されています。
 ですが分かったことも多少は。デモンベインの装甲はそれ自体が魔術的な金属でできていて、勇者ロボのGリキッドに該当するものに水銀が使われているようです」
 牛山がすらすらと答える。そう時間をかけて見たわけでもないのにそこまで見抜く技術者としての腕前はかなりのものだ。彼は控えめな性格ながら、ことメカニックに関しては卓越した能力を持っている。
 なお、魔術的な金属とは神話にあるヒヒイロカネ、水銀はアゾートと呼ばれる。アゾートとはAZOTH、つまり錬金術でいうところの賢者の石のことだ。東洋魔術でも水銀は永遠につながる物質とされている。
「まあ、しかたないと思うよ。俺たちは宇宙に出るほどの科学はまだ獲得してないし、こっちの世界では魔術は発展しなかったみたいだしな」
 そう言いながら九郎はお茶をすする。
「でも、お茶とお菓子はどっちの世界でも変わりないみたいでよかったよ。まさか敵と戦わないで餓死するなんてことになったら冗談にもならないからな」
 それなりに常識的にカップを傾ける九郎の隣に座ったアルは、遠慮や慎みなどまるで無視してクッキーをほおばっている。口腔の容量を超えて詰め込んでいるので、閉じきらない唇からぼろぼろとクッキーの欠片をこぼし続けている。
 大河はその様子を微笑みながら見ている。彼が地球に残してきた子供はまだ一桁の歳だが、成長すれば目の前の少女のようにかわいらしく育つのだろうか?
「素粒子Z0検出! ゾンダーです!」
 突然、コンソールを眺めていた猿頭寺が持っていたカップを放り出して叫ぶ。
「なに!? もうゾンダーは存在しないはずではないのか!?」
「わかりません。ですが、確かにゾンダーです」
 大河長官が信じられないことを耳にして問い質す。が、やはり猿頭寺の言葉は変わらない。
「お……おい、どうしたんだよ?」
 突然の騒ぎに呆気にとられて九郎が誰にともなく尋ねる。
「現時刻を以って対象をEI−EXと認定・呼称する! 総員第一種戦闘配備! ガイ、氷竜、炎竜は出撃! 他の者は援護に回れ!」
 だが大河長官以下GGGメンバーは整然と戦闘準備にかかり、九郎の質問に答えている暇はない。命、スワン、スタリオン、雷牙博士、火麻、猿頭寺らは既にツクヨミに向かって走っている。それを追ってツクヨミに走ろうとする大河の背に九郎は声をかけた。
「よくわからねえけど、俺たちも出させてくれ!」
 九郎は咄嗟に出撃を申し出る。戦闘と聞いたこと以上に、何かよくない胸騒ぎがしたからだ。
「いや、しかし…」
 いまだ正体不明である九郎とアルを、同じく正体不明の敵との戦闘に出撃させてよいものだろうか、と大河は逡巡する。
「妾からも頼む。魔力が感じられるのだ!おそらく奴はこの艦隊のエネルギーを求めて寄ってきたのだろう」
「魔力!? するとEI−EXはその落とし子か!?
 …よし、君たちの出撃を承認する! 頼んだぞ、異世界の勇者たち!」
 超翼射出司令艦ツクヨミの内部でイークイップしたガイはギャレオンとフュージョンし、ガイガーに。氷竜と炎竜はシステムチェンジをしてビークルマシン形態からビークルロボ形態に変形。九郎とアルはマギウス・スタイルになって極輝覚醒複胴艦ヒルメに収容されていたデモンベインに乗り込み、シャンタクを顕現させてツクヨミに乗り移る。
 ガイガー、デモンベイン、氷竜、炎竜が続々と開放型ミラーカタパルトから射出され、ディビジョン艦隊とEI−EXの間に展開。
「な、なんだありゃあ……」
「落とし子であることは確かだが…以前のヤツとは似ても似つかぬな」
 九郎とアルが追っていた落とし子はぶよぶよとした肉の塊だったはず。だが目の前にいるのはそれを基本としながらも随所に油圧ポンプのようなものやチューブ、エンジンのようなものが不規則に並んでいる。サイズも先ほど戦ったときよりもはるかに大きくなっている。いまやツクヨミと同じくらいの大きさだ。
『僕ちゃんが推測するに、さっきの落とし子とやらが異常ESウィンドウの影響で過去から呼び出されたゾンダーメタルと融合したんじゃろう。理由はよくわからんが、巨大化しているばかりでゾンダー化はほとんど進んでおらんようじゃ』
 獅子王雷牙博士がすばやく状況を把握し、可能性を吟味して現状を割り出す。
『よし、各自攻撃開始!』
「うっしゃあ! メルティングライフル!」
「フリージングライフル!」
 大河長官の命令を待ちかねていた炎竜が背に負った巨大なライフルを連射し、それを追うように氷竜も連射する。
「ジェネシック・クローッ!」
 ガイガーは両の拳についた鋭い爪を振りかざしてEI−EXの周囲を飛び回る。
「アル!俺たちも行くぜ!」
「応よ!」
 氷竜、炎竜が遠距離攻撃を仕掛けている間にデモンベインがシャンタクを駆ってEI−EXに迫る。彼らの猛攻により防御に隙ができると踏んでのことだ。
「ティマイオス! クリティアス! アトランティス・ストライク!」
 デモンベインの脚部シールド内の断鎖術式が駆動し、もはや壁のようになったEI−EXに超重力を秘めた回し蹴りがヒットする、が。
「まったく効かぬだと!?」
 氷竜、炎竜の銃撃は着弾の直前に魔力障壁によって阻まれ、ガイガーの爪とデモンベインの蹴りはヒットこそすれまったく効いていない。
「これは……そうか、ゾンダーとやらのバリアシステムと『魂の射出』によってヤツの魔力が増幅されておるからか!」
「ゴルディオン・クラッシャーは使えないか!?」
「何だ、それは!?」
 耳慣れぬ単語ながら、ガイの口調から強力な兵器だと推測してアルが問う。
『対象を光にまで分解するディビジョン・ツールです』
 正式名称グラヴィティ・ショックウェーブ・ジェネレイティング・ディビジョン・ツール。
 地球にいた頃――正しくは150億年後だが――対機界文明戦で最終的な攻撃手段だったゴルディオン・ハンマーを恐ろしく拡大した兵器で、惑星サイズの物体をも光に分解するという凄まじいものだ。
 現在GGG隊員たちが乗艦している三隻のディビジョン艦が変形・合体して完成する超巨大金槌型ツールは、名称が示すように本来防衛組織であるGGGには不相応なほどの破壊力を備えている。全長およそ1キロメートルのそれが発生させるアンチ・メゾトロン・フィールドは全高全幅10q、全長20qにも及ぶ。それに触れた物質は超重力により極小時間のうちに極長距離を落下することになり、結果として物質として存在できなくなり光子に分解されるのだ。
「だめだ、『魂の射出』なくば妾らはもとの世界に帰れなくなる!」
 第一、ゴルディオン・クラッシャーがいかに圧倒的な破壊力を誇るとしても、人間の科学の常識が通用しないEI−EXを滅ぼしきれるかどうかが不安要素となって、アルにその使用を制止させたのだ。
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
 ゴルディオン・クラッシャーの使用を止めるアルに、九郎がEI−EXの攻撃を警戒しながら怒鳴る。
「抉り出せ!ヤツの体内のどこかにあるはずだ!」
「どこかって、お前な……」
『こちらで解析中です……解析完了。デモンベインから見てEI−EXの左下部に異質な物質があります』
 気の抜けた声をしているが、猿頭寺は常に二歩も三歩も先を見据えて的確にサポートしてくれている。
「うっし! 俺たちが突入するから、そこに攻撃を集中してくれ!」
『了解!』
 再び氷竜と炎竜が銃撃し、ガイガーがその爪で幾度もEI‐EXの肉壁を切り裂き、ツクヨミの周辺からも援護射撃が加えられる。ボルフォッグはタケハヤから味方に当たらないように最低まで出力を絞ったリフレクタービームUを放ち、風龍・雷龍、光竜・闇竜、ゴルディータンクは機動部隊に迫る触手を片っ端から撃墜し、マイクはディスクMで勇者部隊のGSライドを活性化させている。
 その一斉射撃によりようやく防御壁に僅かな亀裂が走ると、デモンベインがそこを目がけて二挺魔銃クトゥグアとイタクァを連射しながら突撃。衝突の寸前で二挺魔銃を消して詠唱。
「力を与えよ、力を与えよ、力を与えよッ!」
 ヴーアの印――拳から人差し指と小指を立てた形――を組んだ右手に焔が走り、長く伸びる。それは内に秘めた赤熱した鉄を顕し、精錬して鍛錬し、魔力を秘めたバルザイの偃月刀として顕現する。
 巨大な銘剣を手に、目にもとまらぬ速さでEI−EXを斬りつけながら体内に突入する。進路を阻む肉の壁や触手は全て叩き斬って進むが、さすがに体内だけあって異物を排出しようとする運動が激しい。それを退けるため疲労とダメージが一気に蓄積されてゆく。
「うらぁあ―――!! どこだぁ――――!!」
 力の限りバルザイの偃月刀を振り続ける九郎の視界の端にちっぽけな光が見えた。見間違いかと思って見直し、その光に驚いた。それは異質な光だった。白くも、他のどんな色でもない。黒かった。
「あれだ! あのどす黒い光の中にある!」
 アルの言葉が早いか、デモンベインは黒い光を両断し、中からこぼれた紙片を左手で受け止める。その直後に周囲のEI−EXの肉壁が蠢動し、かすかに薄れる。魔力障壁の増幅を担っていた『魂の射出』が奪われたことを知り、再び異空間に逃げ込もうとしているのだ。
「まずい! 早く脱出せねばこやつに世界の狭間まで連れて行かれるぞ!」
「道連れは御免だな! シャンタク!」
 シャンタクにデモンベインの全魔力を集中し、反転離脱を開始する。だが徐々にEI−EXの体が薄れてゆく。
「間に合えぇええええええ!」
 既に閉じかけていた突入口に扇状に展開したバルザイの偃月刀を投擲し、空いた右手に顕現させたクトゥグアを乱射して穴をこじ開け、追ってくる触手を紙一重でよけ続ける。
 もちろん外部からも穴を広げるために攻撃を加えている。だが破壊しても再生がほぼ同速度で行われるため状態を維持することしかできない。何より、内部にいるデモンベインを気遣うあまり全力で攻撃を仕掛けることができないのだ。
 それでもガイガーと氷竜、炎竜が完全な再生を防いでいるうちにデモンベインは弾丸が尽きたクトゥグアを消し、わずかに開いている脱出口に超重力の蹴りをきりもみ状態から放つ。
「アトランティス・トルネード・ストライク!!」
 内外からの猛攻により薄くなっていたものの、肉と機械の壁にはまだかなりの厚さがあった。それを強引に突き破ったためシャンタクの一部を破損してしまい、それによってかなり減速してしまった。そこへ肉壁がデモンベインを圧搾せんと四方八方から迫る。
「うわぁぁあああああ!」
 デモンベインの速度が急激に落ちる。今しも停止しかけ、万事休すか……
「諦めるなぁああ!」
 九郎とアルがあきらめかけたとき、外で待ち構えていたガイガーがデモンベインの右脚に抱きつき、腰のGインパルスドライブを振り絞って強引にデモンベインをEI−EXから引き出す。デモンベインの全身が外に出るのが早いか、EI−EXは完全に薄れて世界の狭間に逃れていった。
「たすかった……サンキュー、ガイ!」
 間一髪。文字通り、デモンベインの頭部から伸びる光のたてがみが完全に出る前にEI−EXが消えたのだ。それを見て九郎が深いため息を吐く。
「無事だったか!」
「ギリギリだがな…」
 ガイのうれしそうな叫びに、アルが疲れた表情で答えた。




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