内省録
 リフレクションズ。イブン・スカカバオ著。ネクロノミコンにも引用されている。
 大英博物館に保管されているが、造本自体が長く保たないことが予想されるため薬品による予防措置を怠らず、ガラスケースに厳重保管されている。そのため、閲覧できるのは慎重に作成された写真複写である。

頭無き心は邪なる魂なり


ナコト写本 Pnakotic Manuscripts
 プナトニック写本とも。人類誕生より五千年ほど前、更新世以前に古のものによって書かれた書物。
 大いなる種族やツァトゥグア、カダスに関する言及がある。凍てつく荒野のカダスについての記述、第八断片にはラーン=テゴスについての記述がある。
 ロマールの土地と白い肌をしたその住民の歴史、彼らが極北の地にいかにして強壮な要塞を築いたか、そして最後にツァトゥグアを信奉するずんぐりした毛むくじゃらのヴーアミとも呼ばれるグノフ=ケー族とどのように戦い、そしてどのように南に追いやられたかが記録されている。またロマールの民がアヴァロスと呼ばれる主に呼びかけ、アヴァロスが彼らを救ったとも記されている。
 ヴーアミの習俗は婉曲にほのめかされているだけだが、それでも恐ろしいほどの堕落や獣性を隠し切ってはいない。ツァトゥグアについても記述されており、大きな蝙蝠の特徴があるとか、触腕のある巨大な蟾蜍に近いとか描写され、このツァトゥグアが跳ね回るヴーアミを最初の動物の段階から真の人間のよろよろ歩くパロディじみたものへと引き上げたとされている。一方ロマールの民についてはギリシアの半神半人をほのめかす言葉で表現されている。
 ロマールの剣士たちの戦いは気取った文章で余さず記録されているが、唾棄すべきヴーアミの最終的な運命についてはほのめかされてもおらず、年代記の残りは奇跡的な救出によって救われたロマールの民の観点から記されている。
 極地のもの(古のもの)がショゴスによって信じられないような運命に見舞われたことが記されている。
 ムナールのキシュという預言者のものとされる発言が記されている。
 一冊がミスカトニック大学付属図書館に所蔵され、古代北極のロマールの民によって初めて人間の言語に翻訳され、ロマール滅亡に際して持ち込まれた最後の一冊が夢の国のウルタールに保管されている。

汝より偉大なるものは、心して召喚することなかれ。夜の闇にむさぼり食う蛆を召喚せし者らの末路を思うべし


ナスの谷 In the Vale of Pnath
 作家ロバート・ハリスン・ブレイクが一九三四年から翌年にかけての冬の間に書き上げた短編小説。


西ヨーロッパの魔女儀式 Witch-Cult in Western Europe
 西ヨーロッパの魔女儀式とも。英国の歴史民俗学者マーガレット・マレー女史が一九二一年に刊行した古典的研究書。
 魔女信仰がキリスト教以前の土着信仰の残滓であるという仮説を提示し、大きな議論を巻き起こした。


ニトクリス雑録(ニトクリス注解)
 ウォードル著。

……ナイル流域最古の文明の発祥よりも前に、内地球の邪悪な神々からその教派の神官たちに伝えられたものという。鏡の形をとっているが、じつは地獄めいた恐るべき未知なる世界への〈門〉であるといわれる。人類が地球をようやく支配しはじめたころプタトリアの原イメル‐ナイアハイト族によって崇拝され、やがてはネフレン‐カによってシベリ川河畔の窓のない暗き地下神殿に祀られ、〈輝くトラペゾヘドロン〉とともに並べて納められた。そのような鏡の深みに映るものを見ることができる人間が、はたしてこの世にいるだろうか? 暗闇をさまよう幽鬼すら、これを前にしては恐怖におののくのではなかろうか! 後代には盗掘され、蝙蝠巣食うキスの地下迷宮に秘匿されて、幾世紀ものあいだ人目に触れぬこととなるが、ついには女王ニトクリスの悪辣な手のなかに落ちた。女王は鏡を牢内に掛け、多くの政敵をそこに幽閉した。閉じこめた翌朝には死の牢獄のなかから捕囚の姿が消え去り、忌まわしい鏡だけが壁に光っていたという。その青銅で縁取られた地獄への門から暗夜にのぞく恐ろしき顔貌について、ニトクリスは不気味な笑いとともにほのめかすことがしばしばあった。だが彼女自身さえ、鏡に封じこめられた妖異に対してまったく安全を保障されていたわけではなかった。深夜になると、女王はそれをまっすぐには見すえぬように用心しつつ、いつもちらちらとのぞき見るにとどめていたという……


ニネヴェとバビロン
 レヤード著。


ニネベ文明
 一八四五年に古代ニネベを中心とする発掘に成功したイギリスの考古学者にして外交官のレイヤード著。
 ニネベとは古代アッシリアの首都の名前。


ニューイングランドにて異形の悪魔のなせし邪悪なる妖術につきて
 詳細不明。鵞ペンを使って細く読みにくい筆跡で記された草稿。執筆年代も著者名も記されておらず、装丁は明らかに素人が不器用に綴じたもの。1929年にはジャリド・フラーが所有していた。アンブローズ・デュワートが発見した写本は一部しか判読できないペン書きの文書。

されど恐るべき異事に就きて冗漫に語るを避け、ブラッドフォート氏知事就任の折より五十年間に亙るニューダニッチの事態に関し、千般報告されし事ども誌すに留めん。喧伝せらるる所に依れば、リチャード・ビリントンなる者、悪魔の書巻はたまたインディアン蛮族の老呪術師に甘誘され、善きキリスト教徒の慣習より堕落し、肉の不死性を主張するのみならず、森の中にて大いなる環状列席を築き、其の中にて悪魔即ちダゴンへの祈り挙げ、聖書が忌むべき所の魔術典礼を取り行いたり。此は判事等の知れる所となり、リチャード・ビリントンなべての冒涜行為を否定せしも、程無く己が夜の空より呼び出だせし物に対して、秘かに大なる恐怖を顕したり。其の年リチャード・ビリントンが列石の近くにて、七名の者屠られ、尽く其の身砕かれ半ば溶け、尋常ならざる亡骸にと成り果てぬ。出廷が命じられしも,ビリントン行方を晦まし、杳として窺い知れぬを、二箇月後の夜、蛮族ワンパノーアグ森の中にて吠え歌いけるが聞かれり。彼等に依りて環状列石倒壊されし事ども明らかになりぬ。此は彼等の長にしてビリントンに呪術の幾許かを伝授せし件の老呪術師なるミスクアマカス、程無く町に来たりて、ブラッドフォート知事に奇怪なる事を告げたればなり。即ち、彼のビリントン回復能わざる事を為し、自ら空より呼び寄せし物に喰い尽され、ビリントンが召喚せし物を帰らしむ方途無かりせば、ワンパノーアグ族の賢人之を捕え、環状列石有りし場所に幽閉せしと。
 ワンパノーアグ族深さ三エル幅二エルの窩を穿ち、彼等の知れる呪文に依りて魔物を封じ込め、旧神の印の刻まれし(判読不能)にて覆いたり。此の上にて(判読不能)窩より掘り起こせり。蛮族の老賢人申すらくは、此は乱すべからざる在所にして、旧神の印刻まれれし平石の有る限り、魔物の解かるる事無からんと。魔物の姿を問われるに、ミスクアマカス顔を覆いて眼のみ現れたる様を示したる後、極めて面妖なる話を為し、蟇にも似て小さく硬き事も有らば、定まった体無きものの、蛇の生えたる貌を有して雲のごとく大きくなる事も有らんと言えり。
 魔物の名はオサダゴワアにして、此は星より到来して北の地にて崇拝されしと祖先等の語り継ぎたる、サドゴワアの仔を意味せし。ワンパノーアグ族、ナンセット族、ナラガンセット族、此の魔物を天より誘い出せし術を知りたれど、極めて邪悪なる物故、未だ召喚せし事無し。魔物を捕え、幽閉せし術も知りたれど、元に帰らしめん術は知らず。大熊の下に棲い致し、邪悪さの故に古滅ぼされたるラマア族、すべての術に通じたると云う。傲慢なる者数多く、外世界の秘密を知れると宣巻くも、罹る知識を真に持てるを証せし事無し。オサダゴワア好みて空に戻る事多かれど、召喚されずんば戻る能わずと言える者もあり。
 呪術師ミスクアマカス係る次第をブラッドフォート氏に述べたる後、ニューダニッチ南西の沼近くに有りける森の塚に近づきてはならじと告げたり。二十年間立ちし丈高き石は倒せども、塚は儀式の場にて、草木一本生えざると云う。俊傑の人等、行方杳として知れざるにも拘らず、ビリントンが天より召喚せし物に喰れたるを疑いたるが、魔法を使う者ミスクアマカス之を聞きて、信置く能わざれど、ビリントン連れ去られしは事実なりと云えり。蛮族の同胞信ずるがごとく、喰れたるにはあらねど、ビリントン最早この地上に無からんは確なりと。(註・オサダゴワアとはツァトゥグアのこと)

 ……きわめて面妖なる付随報告をなし、大なる蟾蜍に似たることもあれば、巨大にして雲のごときこともあり、定まった形無かりしも、蛇のはえる面貌ありといいたり。オサダゴワーなる名前をもち、これはサドゴワーの仔を意味するも、空からくだりてかつて北の地で崇拝されしと古代の民が語りたる、恐ろしい霊なるらん。
 ワムパノウアグ族、ナンセット族、ナラガンセット族はこれを諸天より呼び出す術を知るも、並外れた大いなる邪悪なるがゆえに、おこないたることなし。これを捕えて幽閉する術をも知れど、送り返すはかなわざりき。大熊座のもとで暮らし、邪悪さのゆえに往古に滅ぼされし、古のラマーの民は、これをいかようにも扱う術に通じたりという。
 あまたある傲慢なる者、外世界の諸々の秘密の知識を有すると装うも、かかる知識を真に有する証拠を持ち出せる者なし。オサダゴワーはしばしば自ら望んで帰還することあれど、召喚されずして戻ることなしと述べる者もあり。


ニューイングランドにて為されし人間の姿にあらざるダイモーンの邪悪なる妖術について
 →ニューイングランドにて異形の悪魔のなせし邪悪なる妖術につきて


ニューイングランドの楽園における魔術的驚異 Thaumaturgical Prodigies in the New-English Canaan
 アーカムの神父ウォード・フィリップス師の著書。

然れども、醜行に就き、旧植民地ダクスベリーのジョン・ドテンの善良なる寡婦、ドテンが一七八七年の聖燭節間近に森より齎したる知らせほど、恐るべき報告は無し。彼の女並びに善良なる隣人等の断言するは、獣に非ず、人間に非ず、然れど人間の顔を備えし蝙蝠に似たる物の怪、彼の女より産まれ出でし事なり。声はあげず、害ある眼にて四方眺めたるとや。ニューダニッチにて魔物と通じたる後、姿を晦ましたるリチャード・ベリンガム或いはボリンハンの顔に、実に驚くべきほど似たると誓いて申すらく者等も有りけん。恐るべき獣人はアジゼスの裁判所にて調べられ、執政長官の命に依り、一七八八年六月五日焚刑に処せられぬ。


ニューオリンズ・ステイツ通信
 新聞。
 ニューオリンズ大学民俗学教授ロバート・カールトン博士の死亡を報じた。


ニュー・サイエンティスト
 学術誌。


紐育市史
 ニューヨーク市史。
 初期の植民者らが何ら思い当たるべき目的もないのに巡回の夜警隊を組織して夜ともなれば街路を、特に共同墓地のある地区をパトロールしたという記述、明かりのない暗闇での略奪や襲撃、だしぬけに出現した石器斧、町中が目覚める夜明け前に行われた埋葬などに関する記述がある。
 それはもちろん食屍鬼にかかわる記述である。


人間とエネルギー
 アベロード著。


ニンの銘板
 かつてヤディスに存在していた有害な著作。


ヌミノスの書
 地球の書とともにボレアの衛星ヌミノスに伝わる歴史書。


ネクロノミコン Necronomicon
 狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザードによって記された『アル・アジフ』の翻訳版。原典は既に失われている。北米大陸には二部、世界でも五部しか存在が知られていない。
 950年にコンスタンティノープルのテオドラス・フィレタスによってギリシア語に翻訳されたが総主教ミカエルによって発禁・焚書処分にされた。その後、16世紀にイタリアで印刷される。1228年にオラウス・ウォルミウスがラテン語に訳したときには既にアラビア語版の写本と原典は失われていたというが、その一部は無名都市の地下、拷問によって死亡したアルハザードの墓に隠されていた。ラテン語版は十五世紀のドイツでゴチック体で、1622年にスペインでスペイン語に翻訳されて、それぞれ印刷されている。
 ギリシア語版、ラテン語版ともに1232年に教皇グレゴリウス九世によって出版が禁止された。この書物はほとんどの国の政府・教会によって出版が禁止されている。後にミスカトニック大学出版局から注釈つきの翻訳が出版された。
 サンフランシスコで失われたとされるアラビア語写本が現れ、後に火災で焼失したという風説がある。イタリアで印刷されたギリシア語版はセイレムのある男の蔵書が1692年に灰燼に帰して以来、何の報告もない。ジョン・ディー博士が英訳したものは貴重ではあるが不完全である。またジョン・ディーは『ロガエスの書』もしくは『エノクの書』と呼ばれる暗号文書がネクロノミコンだという説を持っている。
 ラテン語版は十五世紀版一冊が大英博物館に、十七世紀版それぞれ一冊がパリの国立図書館、ハーヴァード大学ワイドナー図書館、ミスカトニック大学付属図書館、ブエノス・アイレス大学図書館に保管されている。黒字書体版がマサチューセッツ州セイラムのケスター図書館に所蔵されているフェデラル・ヒルの星の知恵派教会の廃墟にあったスペイン版はその後ナイアーラトテップに取り憑かれたアンブローズ・デクスター医学博士が回収し、保管している。版は不明だがリマ大学にも保管されている。その他にも秘密裡に何冊か存在するのだろう、十五世紀版一冊がアメリカの大富豪の蔵書になっているという噂がある。同じく噂だが、十六世紀ギリシア語版をセイレムのピックマン家が保存していたというが、事実だとしても一九二六年に失踪したリチャード・アプトン・ピックマンとともに姿を消したのだろう。ヴァティカン図書館に秘蔵されているという者もいる。かつてのベルリンの東ドイツ領との境界地帯の塹壕が埋め立てられたところの地中に一冊埋められているという噂がある。
 ネヴィル・スピアマン版(正しくはアウルズウィック・プレス版)はわずか16ページのアラビア語の手書き文字が何度も繰り返されるだけの偽物である。
 アラブ人がベレド=エル=ジンと呼びトルコ人がカラ=シェールと呼ぶ、アッシュールバニパルの焔が置かれている邪悪都市についての記述、クトゥルーの落とし子についての記述が、〈黒きもの〉〈溺れさすもの〉イブ=ツトゥルの血に関する記述、女王ニトクリスの鏡に関する記述、マオ典礼と呼ばれる夢を以て外界と交流するための方法についての記述、凄惨な屍食儀式がレンのどこかで行われているとの記述がある。完全版の七五一ページにはヨグ=ソトースの帰還を可能ならしめる非常に長い第九の詩がある。
 また、ショゴスはある種のアルカロイドを含む薬草を噛んだ者の夢の中をのぞいて地球上には存在しないとある。

敢えて〈帳〉の彼方を窺わんとて、〈彼のもの〉を導くものとなす輩ありけるも、〈彼のもの〉との交わり控えるが賢明なるべし。何となれば、〈帳〉の彼方を一瞥するだに実に恐ろしきこと、『トートの書』に誌されたればなり。境界を越ゆる者絶えて戻らぬ所以は、吾等が世界の彼方なる縹渺たる虚空にて、吾等を掴み縛むる闇のものどもあればなり。夜を徘徊するもの、〈古の印〉を侮る邪悪のもの、なべての墓に備わるという神秘の穴をたたずみて眺むるものども、葬られし亡骸より生まれいずるを喰いしものども――かかる幽冥のものどもを悉く凌駕するは、〈道〉を固むる〈彼のもの〉なり。軽率なる者をなべての世界の彼方、名状しがたき貪り喰うものどもの〈奈落〉に導きこむ〈彼のもの〉なりける。すなわち〈彼のもの〉こそウムル・アト=タウィルにして、写字者により延命せられしものとあらわさるる〈古ぶるしきもの〉なれば。


クトゥルーの名を口にする者、かかるを銘記せよ。クトゥルー死にたりと見ゆるにすぎぬ。眠りたれど眠るにあらず。死にたれど死せるにあらず。眠り死にたれど再び甦りたり。真相は次のごとし。

そは永久に横たわる死者にあらねど
測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるもの
(永遠の憩いにやすらぐを見て、死せる者と呼ぶなかれ
果て知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めなれば)
(久遠に臥したるもの死することなく
怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん……)


 ウボ=サスラは忘れられざる源なり。ベテルギウスより支配致せし旧神にあえて刃向かいし者等、即ち旧神に挑みし旧支配者はウボ=サスラより出でけり。旧支配者、盲目にして白痴の神なるアザトース、並びに全にして一、一にして全なるもの、時間或いは空間の如何なる制限をも受けず、地上においてウムル・アト=タウィル及び古のものどもの顕現をとりたるヨグ=ソトースに嗾されたればなり。旧支配者、地球並びに全宇宙を再び支配せん来るべき時を永遠に夢に見つづけん。何となれば、これらの者にこそ、地球及び宇宙の所有権あるがゆえなり……大いなるクトゥルーはルルイエより昇らん。名づけられざるものハスターはヒヤデス星団中アルデバラン近くの暗黒星より再来致さん……ナイアーラトテップは潜み棲みし闇の中にて永遠に咆哮し続けん。千匹の仔を孕みし森の黒山羊なるシュブ=ニグラスは仔を産み続け、なべての森のニュムペー、サテュロス、レプレコーン、矮人族を支配せん。ロイガー、ツァール、イタカは星間宇宙を飛び、トゥチョ=トゥチョ人なる従者の地位をひきあげん。クトゥグアはフォマルハウトより領土を取巻かん。ツァトゥグアはンカイより現れん……。時が近づき、刻限が間近に迫りながら旧神旨寝をむさぼりたれば、旧支配者門にて永遠に待ち続けたり。旧支配者既に従者に外世界からの扉の前にて待てやと命じることを得れば、旧神によりて旧支配者に課されし呪文を知り、呪文を破る方途を知りたる者おるを、旧神知らず、熟睡の内に夢を愉しみたり。〈旧神〉により〈旧支配者〉封印されし呪文、その呪文を破る方策、戸口の彼方にて待ちおりし者らの従者どもを従わせる術を知る者おるがゆえなり。


魔女、悪鬼に対して身の護りとなるもの、深きものども、ドール、ヴーアミ、トゥチョ=トゥチョ人、忌まわしきミ=ゴ、ショゴス、ガースト、ヴァルーシア人、並びに旧支配者及びその落とし子に仕える同様の人種、はたまた生物に対して身を護るものは、古代ムナールの灰白色の石より刻まれたる五芒星形の内にあるも、こは旧支配者に対しては力足らざり。この五芒星形の石を所有する者、戻る道なき源にまで飛び、歩み、這い、泳ぎ、忍びゆくなべての生物を意のままにすることを得ん。ルルイエにてもイヘエにても、ヨスにてもイハ=ントレイにても、ゾティークにてもユゴスにても、クン=ヤンにてもンカイにても、ハリの湖にても凍てつく荒野のカダスにても、イブにてもカルコサにても、五芒星形その力を発揮したり。しかれども星が弱まり冷え込みし時、太陽が消え星の空間広がりし時、なべての力も弱まらん。五芒星形の力も、恵み深き旧神によりて旧支配者に課されし呪文の力もこの例にもれず。かかる時、かつての時と同じ時訪れ、次の聯句が立証されん。

そは永久に横たわる死者にあらねど
測り知れざる永劫のもとに死を越ゆるもの(以上一七七ページ)


 魔のもの、悪のもの、深きもの、ドオルのもの、ヴォォマイのもの、タチョ‐タチョのもの、ミ‐ゴのもの、ショガオスのもの、ガアストのもの、ヴァルジアンのもの、ほか数多、〈大いなる旧きもの〉およびその仔らに仕えるものらなべてに抗しうる〈鎧〉こそ、古きムナアルの灰色の石より打ちいだしし五芒星のうちに秘められたり。されど〈大いなる旧きもの〉自体に抗するには足らず。この石を持つもの、戻る術とてなき淵源に忍び入るもの泳ぎ入るもの這い入るもの歩み入るもの飛び入るものすべてに命をくだす力を持つ。大いなるルルイエに似てイヒにても、ヨスに似てイハ=ンツトイにても、ゾシイクに似てユゴスにても、ナアア=フクおよびクン=ヤンに似てン=カイにても、グ=ハーンに似てカルコサにても、イブおよびルフ=イブの双子の邑にても、〈冷たき荒地〉のカダスに似てハリ湖にても、そは力を持つものなり。なれど星々褪せて冷えゆき、日は朽ちて星々の間も広がりゆけば、なべてに及ぶ彼の力も褪せゆくものならん。即ち、〈旧き善き神〉より〈大いなる旧きもの〉に及ばせし五芒星の石の魔の力も、一度時来たらば弱まるものならん。その時を知るべし

久遠に臥したるもの、死することなく
怪異なる永劫のうちには、死すら終焉を迎えん(上記の違訳だが、若干記述が増えている)


 人間こそ最古あるいは最後の地球の支配者なりと思うべからず、また生命と物質からなる尋常の生物のみ、此の世に生くるとも思うべからず。〈旧支配者〉かつて存在し、いま存在し、将来も存在すればなり。我等の知る空間にあらぬ、時空のあわいにて、〈旧支配者〉のどやかに、原初のものとして次元に捕わるることなく振舞い、我等見ること能わず。ヨグ=ソトースは門を知れり。ヨグ=ソトース門なれば。ヨグ=ソトース門の鑰にして守護者なり。過去、現在、未来はなべてヨグ=ソトースの内に一なり。〈旧支配者〉のかつて突破せしところ、ふたたび突破せんとするところ、ヨグ=ソトースこれを知る。〈旧支配者〉かつて大地を踏みにじりしところ、いまなお踏みにじりたるところは云うにおよばず、かかる〈旧支配者〉の見えざる理をもヨグ=ソトースこれを知れり。人は臭によりて〈旧支配者〉気近しとて悟ることままあれど、〈旧支配者〉の姿につきては知ること能わず、唯〈旧支配者〉と人間との交種に現るる特徴をよすが窺いうるも、此は千差万別にして、人間の最も真なる姿をとることもあらば、〈旧支配者〉のものなる、実体を有せざる不可視の姿をとることもあらん。〈旧支配者〉見えざるまま、悪臭放ちながら跋扈せし荒寥たる在処とは、〈旧支配者〉の盛んなる季、〈言葉〉、これが唱えられ、〈儀式〉、これの叫呀せられん所なり。〈旧支配者〉の声と共に風はおらび、〈旧支配者〉の意識と共に大地はことさやがん。〈旧支配者〉は森を撓め、邑を砕くも、森にまれ邑にまれ、襲いかかる手を見ることなし。凍てつく荒野のカダス〈旧支配者〉を知るも、人はカダスにつきて何をか知らん。南の氷の荒野、はたまた大洋に沈みし島々、〈旧支配者〉の印の刻まれたる石を有すれど、海底深く凍てつきたる都市、はたまた海藻と富士壺の絡みこびりつく鎖されし塔、何人の目にとまりしや。大いなるクトゥルー〈旧支配者〉の縁者なるも、漠々として〈旧支配者〉を窺うにとどまりたり。イア! シュブ=ニグラス! 汝は悪臭放つものとして〈旧支配者〉を知るばかりなり。〈旧支配者〉の手、汝の首にかかりたれど、汝〈旧支配者〉を見ることなく、〈旧支配者〉の棲いたすところ、汝が護り固める戸口ならん。ヨグ=ソトースは星辰の出会いし門の鑰なり。人がいま支配せし所はかつて〈旧支配者〉の支配いたせし所なれば、〈旧支配者〉ほどなく、人のいま支配せるところを再び支配致さん。夏の後には冬来たり、冬過ぐれば夏来たるが道理なり。再度この地を統ぶる定めなるが故、〈旧支配者〉その力を秘めて弛まず待ちうけたるが、時節来らば何者も〈旧支配者〉に刃向うを得ず、なべては〈旧支配者〉の支配下に置かれけり。門を知る者〈旧支配者〉のために道を開けるを余儀なくされ、〈旧支配者〉の望むまま〈旧支配者〉に仕えけるが、知らぬままに道を開きし者が〈旧支配者〉を知るは刹那なりけん


……先に約されしごとく、彼は自ら刃向いし者等に捕えられ、大洋の深下に投げ込まれ、水没した都(ルルイエ)なる大いなる廃墟の只中に聳え立つと云われける富士壷のこびりつきし塔に入れられ、旧神の印にて封じ込められけるが、自身を幽閉せし者等に激怒致さば、彼等の怒りを買い、彼ら再び彼に下りて彼に死に似たるものを課し、彼をして夢見るままに残し、而して自ら来れり場所、即ち、星辰の間にありしグリュ=ヴォに還れり。彼はルルイエの館にて永久に夢見るままに横たわるも、彼のなべての下僕なる者万難を排してルルイエを目指し、怖るべき力を秘めし旧神の印に触るること能わずと云えど、周期環帰し、彼の解き放たれて再度地球を取り囲み、地球を己が王国となし、旧神を新たに打ち倒すことを知れば、彼の目覚めを待ち望みたり。さらに言えば、彼の兄弟にも同様のこと起こり、自ら刃向いし者等に捕えられ、流刑に処せられぬ。名づけられざるものは星辰の彼方の深外の空間に追放され、残る者等も地球よりことごとく追われけり。炎の塔の形の内に来れり者等、また元の地に戻りたれば、絶えて姿を見ること能わざれど、地球には安らぎ訪れ、旧支配者の下僕等集いて旧支配者を解き放つべく方途を探り、人が秘密に包まれし禁断の場所を窺いて門を開けるを待つ間は、その安らぎを破らるること無からん。


 旧支配者につき、彼等門にて待ち構え、其の門こそなべての空間にして時間なりと誌されけり。何となれば、彼等時間と空間の何たるかを知らねど、現れずとも、なべての時間と空間に存在すればなり。彼等の内には形状、特徴、本来の形、貌を変えられし者あり、彼等にとりてはいたる所が門なりけん。されど余の開かんとした第一の門は砂漠の下なる円柱都市アイレムにありき。しかれども人が石を築きて禁断の言葉を三度口に致さば、あらしめるべき門たちどころに現れ、門を抜けて来るべき者等到来致さん。そはドール、忌むべきミ=ゴ、トゥチョ=トゥチョ人、深きものども、ガグ、夜の魍魎、ショゴス、ヴーアミ、凍てつく荒野のカダスとレン平原を護りしシャンタクなり。旧神の子等はすべて似たりけるが、大いなるイースの種族と旧支配者、意見をたがえて旧神に刃向い、旧支配者が地球を掌中に収むるかたわら、大いなる種族はイースより戻りて、いま地球を歩みおる人には未だ知られざる、時間を先へ進みし地球の土地に在所を定め、先に自らを駆り立てたし風と声が再び来り、風の上を歩みしものが地球及び星辰の間なる空間を永久に覆いつくさん時を待ちたり。


 やがて彼等は復活せり。この大いなる復活の時、大いなるクトゥルーは海洋の下なるルルイエより解き放たれ、名づけられざるものハリの湖近くのカルコサなる己が都より来り、シュブ=ニグラス現れて悍しさを倍化し、ナイアーラトテップ旧支配者とその配下に言葉をもたらし、クトゥグア刃向う者等に手をかけて破壊し、盲目の白痴にして有害なるアザトース無限と呼ばるるなべてのものの中心、泡立ち不敬の言葉を吐き続けおりし所、なべてが混沌として破壊されん世界の只中より現出し、一にして全、全にして一なるものヨグ=ソトース己が天球を運び、イタカまた歩み、地球の内なる暗澹たる洞窟よりツァトゥグア到来し、而して彼ら共に地球並びに地球に生けるなべてのものをわがものとなし、大いなる深淵の主、彼等の復活を知らされ、兄弟達と共に邪悪を放散致すために来たらん時、彼等旧神と戦う準備を致さん。


人は彼のものを、闇に棲むもの、旧支配者の同胞にしてニョグタと呼ばるるもの、ありうべからざるものとして知れり。彼のもの、しかるべき秘密の岩窟ならびに亀裂を通じ、大地に召喚さるることあれば、あるいはシリアの地にて、あるいはレンの黒き塔の下にて、彼のものを見たる妖術師、ただ一人にあらず。韃靼はタンの洞窟より、彼のもの荒ぶる姿を顕現し、大いなるカーンの包に恐怖と破壊をもたらしたり。彼のものを自ら棲みたる夜闇集う不浄なる岩窟に退散させるは、輪頭十字、ヴァク=ヴィラ呪文、ティクゥオン霊液のみ。

や な かでぃしゅとぅ にるぐうれ……すてるふすな くなあ にょぐた……くやるなく ふれげとる……(ヴァク=ヴィラ呪文)

 人それを〈闇に棲むもの〉と識る。〈古きもの〉それを〈ニョグタ〉と称ぶ。すなわち〈在りうべからざるもの〉と。このもの、秘められし洞あるいは罅より出でて地のうわべにいたりぬ。このもの、シリアにて、あるいはレンの〈黒き塔〉の下にて、魔の術をあやつる者らの目に触る。また韃靼のタンの洞より出でて、大いなる王の宮殿に恐れと崩れをもたらしぬ。このものをかつて棲みいたる暗き洞の隠されし腐濁のなかに退かせしむるは、ただ環の十字と、ワク‐ウィラジの祓式と、ティコウンの霊液のみにてかなうべからん

や な かでぃしゅとぅ にるぐふ・り すてる・ぶすな にょぐさ、く・やるなく ふれげそる る・えぶむな すぃは・ふ ん・ぐふと、や・はい かでぃしゅとぅ えぷ る・るふ‐ええふ にょぐさ ええふ、す・うふん‐んぐふ あすぐ り・ふええ おるる・え すぃは・ふ。(ワク‐ウィラジの呪文(ヴァク=ヴィラ呪文))


……最も軽きはナラトースの眠りにして、ナラトースを目覚めさせるは術に未熟なる者にも可能なり。ナラトースは大いなる門の彼方にて微睡み、ふたたびあらわれる日を待って眠る旧支配者の下僕をつとめ、その姿は実にも恐るべきかな。されどナラトースをその冒瀆的な夢より呼出し、仕えさせるは可能なり。ナラトースを支配する者は世界の富に近づけるも、ナラトースは旧支配者の力をわかちもち、その怒りすさまじければ、細心の注意をはらうべし。ナラトースを召喚しつつ支配あたわざる者こそ哀れなるかな。
ナラトースを召喚するには次の簡単な手順に従うべし。必要なるは、牡猫の血、女の肌着……

ふんぐるい・むぐるうなふ・くとぅるう・るるいえ・うがふなぐる・ふたぐん。いあ、しゅぶ・にぐらす。ならとーす、ならとーす、ならとーす。(ナラトースにかかわるもの、以上638ページ)


ルルイエの場所を知る者よ、遙かなるカダスの秘密を知る者よ、クトゥルーの鍵を握る者よ、五芒星形により、キシュの印により、〈旧神〉の同意により、我は汝を復活させん(死者の霊魂を復活させる呪文。これを三度繰り返し、一度毎に模様を描いてゆく)


ネフレン=カ、真理の糸を織りあげん


最下の洞窟、その驚異こそ奇怪にして恐るべきものなれば、窺い見ることを得ず。死せる思念新たに活命し、面妖にも肉をまといし地こそ呪われたり、頭備えぬ魂こそ邪悪なり。賢しくもイブン・スカカバオ言いけらく、妖術師の横たわらぬ墳墓は幸いなるかな、妖術師なべ死灰と化せし夜の邑は幸いなるかな。何となれば古譚に曰く、悪魔と結びし者の魂、納骨堂の亡骸より急ぐことをせず、遺体をむしばむ蛆を太らせ指図すればなり。さるほどに腐敗の内より恐るべき生命うまれ、腐肉をあさる愚鈍なるものども賢しくなりて大地を悩まし、ばけものじみた大きさになりて大地を苦しめん。細孔あるのみにて足るべき大地に大いなる穴ひそかに穿たれ、這うべきものども立ちて歩くを学び取りたり。


数多おびただしき姿態の魍魎、原初より地球を跋扈せし。或は不動の岩の下にて眠り、或は樹木とともに其の根より育ち、時に海洋や大地の下にて蠢き、神聖不可侵の古代神殿の奥処に棲み、気高き青銅造りの鎖されし奥津城、はたまた粘土にて封印せられし低き墓所より稀に現わるる。久しく人間に知られおるものもあらば、未だ知られず、後の世に凶まがしき姿を顕示する時を待つものもあり。最も怖ろしく最も忌むべきものは、いまもって明らかにさるるに至らざりき。然れど既に其の姿を顕現し、紛うかたなき存在を示すものどもの内に、汚らわしさ極まるが故、妄りに名をあげぬがよろしきものあらん。即ち地下納骨所に潜み棲むものが人間の女に孕ませたる末裔なり。


ンガイ・ングアグアア・ブグ=ショゴグ・イハア、ヨグ=ソトホース、ヨグ=ソトホース……
イグナイイ……イグナイイ……トゥフルトゥクングア……ヨグ=ソトホース……
イブトゥンク……ヘフイエ――ングルクドルウ……
エエ・ヤ・ヤ・ヤ・ヤハアアア――エヤヤヤヤアアア……ングアアアアア……ングアアアアア……フユウ……フユウ……(おそらく751ページの第九の詩の断片)


まことに知りたる者わずかなれど、しかありながらまがうかたなき事実なり。死せる妖術師の意欲、その肉体に力をおよぼし、墓より肉体を立ちあがらしめ、それによりて生前なしえざる行いを成すことを得ん。かかる復活おしなべて、悪行ならびに他者を害するためなり。五体無傷のままに残らば、あらまし死体の蘇りは可なるかな。しかれども妖術をふるう者の卓越せる意志、おびただしく切り刻まれたる肉体の断片をば、死より蘇らせ、あるいは分断されたる状態のまま、あるいはしばしの再結合をなしたる状態のもと、目的とするところを行わん場合あり。されどいかなる場合にあれ、行為の成就したる後、その肉体もとの姿に還らん。(この一節はラテン語版にはない)


十字架は他者の作用を伝える媒介にあらず。至純なる心を守り、サバトの上空にあらわれること多く、暗黒の魔物どもを混乱させ退散させるものなり。


 ……心得ある者かの呪文を唱えしとき、時代の如何を問わず、宇宙ならざる宇宙より〈黒きもの〉喚び出さる。そはイブ‐ツトゥルの血にして、生け贄を息詰まらせしめ、その生を奪い魂を喰らい、ときに〈溺れさすもの〉と呼ばる。この溺死より逃るるは、ただ水によるべし。水中に於いてのみ……


 ……日の高きうちは、鏡の表はイース=シェシュの水晶池の水面のごとくなめらかにして、あるいは溺れる者のおらぬときのハリ湖のごとく静まり返りて、門は固く閉ざされぬ。されど深き夜の魔の刻限、秘密を知る者は――あるいは秘密を慮る者もまた――必ずや見るであろう。暗黒の深淵にわだかまる異形の影を、その鏡のなかに。それはかつて鏡をのぞきし者らの具う。また、いかに鏡がとこしえに忘れられようとも、その魔力は滅びることなく、いつのときにかまた人の知るところとならん。

久遠に臥したるもの死することなく
怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん……


 此の星のおぼめく怪異なるもの、数多にして諸々あり。始原の時より既に潜み棲む。彼のものども覆されざる石の下に眠る。大樹根底より倒る時、彼のものども起つ。されど今は海底に蠢き、地の底のいや果てに住み暮らす。或るものらは古くより人に知られ、或るものは未だ知られず、諸共姿現すが叶う恐るべき時を待つ。分けてもの一つは呪いより生まれし邪悪なるもの〈最も大いなる古きもの〉なり。彼のもの海底に沈められ封印されし時、大地の隅々にまで響く叫びを放ちしという。斯くて彼のもの此の世をば久遠に呪う。其の呪いとは斯くのごとし。〈我を囚えし牢獄たる此の星に生くるもの、其のものらなべての只中に逆徒をば忍ばせ、人の世を滅却せしむるものなり。しこうして大地を薙ぎ払い我が帰還の時に備う。〉彼のものを囚えしものらこの呪いを聞き、再び害為す能わぬ深みに彼のものを押し込めぬ。また其のものらは善きものなれば、彼のものの望みし害を雲散せしむべく努むれど、此れ叶わず。然れば其のものら拮抗魔術を用う。此れは斯くのごとし。すなわち、邪悪なるものども起ちて力備う時、其れを逃さず感知するものを常に配し、以て罪なきものらを大いなる呪いより救うべしとす。さらに此処に手管を加う。すなわち悪しきものどもひとたび現れたれば、其の手管を心得るもの此れを捕らえ、斯くのごとく唱うべし、〈我、汝を識る〉と。且つまた、悪しきものの〈数〉をも詳らかにして……


……なべての墳墓にあると知られる秘密の出入口を見はり、そこに棲むものどもより生じるものを喰らうものども……


墳墓に群れなすものども、その崇拝者に便宜をはかることなし。彼のものどもの力はわずかにして、ささやかな範囲において空間を歪め、異界にて死せるものより生じるものに実体をあたうるのみ。彼のものども、しかるべき時節にヨグ=ソトースの歌が口にされる場に力をふるい、納骨所への扉を開く者を引き寄せん。この世界にあっては肉体を有さず、ただ滋養を得るため、この世界に住むもののなかに入りて、星辰の位置が定まり、無限の門口が開きて、障壁をかきむしるものが解放されるのを待つ。


……かくて腐りし屍より命蘇るも、地蝋を漁るものあさましくもそれをいたぶり、蝋にて固め腫らして責め苦となすものなり……


 何人にも疑いえぬ真実に、血と肉なる繋がり持つ者の結びよりなお強き絆秘めたる者らのげに深き関わりあり。かくなる絆有する者、その対なる者の苦も楽もともに感得す。あるいは遥かに隔たりても、痛みも悦びもともに験ずるものなり。また外なる界の生と霊の黒き法による侵すべからざる智と力の援けにより、共感の技と術持つ者すらあり。吾それなる男女捜し求め試したれば、その者ら悉く先見の力持つ者らなりと判ず。即ち悉く予知の能持てる術者あるいは魔女または妖師なり。而ればその者ら皆死せる魂逝ける霊との交わりにより力を働かすを望めり。然れど吾、かくなる魂と霊しばしば邪悪の侍者なることありと恐る。あるいは黒き者の使いなるを、またさらに旧き邪霊の配下なるを恐る。何となれば、それらの者らの属には甚大なる力により他の者の肉軀の内に直ちに棲みうる例あるがゆえに。しかもその苦運を受けし者の意志にも逆らい、あるいはその者の知らざるうちにすら。


 さらに述べれば、吾自らにして、すでに記したる最古の邪霊の夢見しことあり。その霊、生も死も一にして等しき不滅の境にも近き深みにて睡りおりたり。その霊、死の滅びを恐れることなけれども、死のとき迫りたれば自らを律し、自らの古き肉より脱す。そののち時を測りて、自らの仔なる新たなる肉の内に宿り、さらには己の大いなる父たる罪の全てを背負いたるまま、自らの仔のさらにその仔の内にまで訪わんとするものならん。吾その様をこそ夢見たりて、わが夢は彼の大いなる夢見の霊の夢そのものにこそ等しければ……


〈大いなる旧きものども〉解き放たれ、遠き昔日のごとくふたたびこの地上を闊歩するとき、この雄体(あるいは雌体)もまたいまひとたびこの世に出でるものなり(シュブ=ニグラスについて)


 ヨグ・ソトートの護衛せる門の彼方の、異世界に就きて、吾等の知識はまことに微々たり。此の門より抜け出で、吾等の世界に居住せり者ありと雖も、それらを識別せし人間は唯一人とて無からん。されどイブン・シカバオ云わく、スグルーオ湾より潜入せし生物は、其の発生する音によりて知ることを得べしと。彼のスグルーオ湾に於いては、世界其れ自身が音に依りて構成せられ、物質は単に臭気として感知される而已。我等が世界の管楽器の調べは、スグルーオ湾の世界に在りては、妙なる美ともなれば、耐え難き、嫌悪を催さしむるものともならん。おそらく彼我の境界の稀薄化せんとするがためなり。出所不明の音響の発生せる時、吾等がスグルーオの住民に注意を指向するもまた当然なるべし。彼の住民は、地球の住民に対して殆ど危害を及ぼすことなきなり。彼等の恐るるは、ただ、彼の世界に入るや特殊な音響に変化せん、ある種の形象而已。


塔を抜け出でし甲殻蜥蜴ども地上に降り立てり


 いまやアザトート、かつて二枚貝の姿にて君臨するが如く全き支配を完遂し、その雷名とどろけるところ、トンドの悪魔ども、はたまたヰ・ゴロゥナクの僕に至るまでついに畏れひれ伏さざるものなし。まことにかくも強大なるアザトートの名に抗い得べきもの何処にかあらん。ユゴスの常闇に棲めるものといえども、アザトートのいまひとつの名〈N……〉呼ばわらばうち砕かれざるを得ず


異次元に通じる門、異次元から時折闇の門をくぐって、この世に迷い込み、雪の中を闊歩するものども


レンに関する記述によれば、それは多くの世界と相接する闇の国である。なぜなら、レンは三次元とは異なる次元が交互に現れる国であるが、かの荒涼たる人跡未踏の砂漠と、極寒の丘陵と、魑魅魍魎が出没する黒い峰々とで囲まれた場所に、異次元に通じる不可思議な門があって、異次元から時折この闇の門をくぐって、この世に迷いこみ、雪の中を闊歩するものどもも、思うだに身の毛のよだつ饗宴で飽食すると、名もしれぬ未知の領域へ帰ってゆくからである……


 星の祝宴にあずかるものを召喚するには、アルゴルが最初に地平線上に昇る夜を見いだし、十三人が集まって、石のまわりに円を描いて手を繋ぎ、以下の呪文を声をそろえて唱えるべし。イア、イア、ンガアア、ンガイ=ガイ。イア、イア、ンガイ、ン=ヤア、ン=ヤア、ショゴグ、フタグン。イア、イア、イ=ハア、イ=ニャア、イ=ニャア。ンガアア、ンガイ、ワフル・フタグン=ズヴィルポグア。アイ、アイ、アイ。そして集会の主催者のみが口にするズヴィルポグアの名前に対する返答は、ツァトゥグアの仔を意味するグ=ツァトゥグアであり、この名前は一般あるいは下卑た言語によってのみ口にすべきことによくよく注意せよ。


 ……巨大な蟾蜍に似て、瀝青のごとく黒く、悪臭を放つ粘液でもって輝き、蝙蝠のごとき翼とベヘモスのごとき後脚を具え、外に広がった鉤爪のあいだに水掻きがあり、面貌はなく、面貌のあるところより蠢く触角の恐ろしげな髭がはえたり。そして人の肉を喰らい、人の血をすするも、これは時間をたっぷりかけておこない、まず人を空高くにあげて、百リーグ以上も運んでから、肉をひきさき、運び上げたところより大地に落とす。


他に一者あり。大いなる一者なり。大いなる父と大いなる母はその一者のうちにあり。大いなるクトゥルー、その兄弟なるハスター、千匹の仔を孕みし山羊シュブ=ニグラス、ツァトゥグア、大いなるヨグ=ソトースよりも偉大なり――これらはなべて一者の子なりせば。万物の王、盲目の白痴、アザトースそのものの主権に挑みたれば、かつては大いなる旧支配者の一人にして、最強のものに迫りたり。否、子らが語りたるは――吾は信じてはおらぬにせよ――彼のもの(偉大なるあまり名づけようもなきもの)がまさしく万物の王なりという。彼のものはかくも偉大なれば、思いをめぐらしてはならぬものどもは、邪悪が至高の存在にならぬよう、彼のものをその悍しき玉座より投げ落とし、破ること能わざる肉の鎖にて、この亡者の星に繋ぎとめたり。かのものは転落の際にヨグ=ソトースを生み落とし、アザトースと対等なるはヨグ=ソトースのみ。彼のものがおのれの肉よりつくりだし、おのれの従者にしてこの星の支配者になさしめた、大いなる忌むべきものどもの最初のもの、大いなるクトゥルーはかく告げたり。
 大いなる彼のものは強大なり。彼のものが縛されし躯体は忌わしくとも、彼のものはその恐怖を悦に入り、おのれの意思によりて、その躯体を死すべき人間の怯懦な心に死をもたらすものへと変じたり。大いなる旧支配者の使者なる無貌のナイアーラトテップは、彼のものの不浄さに堪えること能わず、彼のものは山脈の洞窟にて、おのれの粘着性の発散物にまみれて横たわり、おのれとおのれの落とし子なる神々の恐怖によりて、この世界を支配したり。吾、アブドゥル・アルハザードを措いて、彼のものを生きて崇めたてまつる者なし。彼のものの子らは大いなるものにして、吾はまめに仕えたれば、短剣と火と水による幼稚な拷問を声高に告げる人の姿をした臆病者どもに、恐怖の絶叫をあげさせる恍惚でもって報いられぬ。されど大いなる彼のもの、彼のものに仕うることは……
 ローマ人よ、呪われてあれ。彼のローマ人の絶叫する魂を、ティンダロスの猟犬よ、未来永劫にわたりて追えよかし。何たることをなしたることか。吾は大いなるクトゥルーにたずねたれど、すくみあがりて答えぬ。ツァトゥグアにたずねたれど、告げてはくれぬ。落とし子たちの中でもっとも偉大なるヨグ=ソトースにたずねたれど、語りてはくれぬ。ああ、吾はわが術により、闇のなかでおらぶ無貌のナイアーラトテップに呼びかけ、たえて人がおこないし試しなき命令を、大いなる旧支配者の使者に発したれど、ナイアーラトテップは永遠の怒号をやめ、いずれ時に呑みつくされる定めの永遠の灼熱のもの、クトゥグアのみを恐るるごとく、吾を恐れたるも、吾に答えようともせぬ。
 アザトースの策謀なりしか。彼のものの子らがいうには、いかに強壮なりといえども、アザトースが大いなる彼のものに謀反をたくらむことなし。しかあれど、敵意ある導きによらずして、彼のローマ人、彼の信じがたき男が、有象無象の兵士をひきつれ、大いなるものの洞窟の存する山脈に分け入るはありえぬことなり。あるいは旧神によるものやもしれぬが、旧神が望みしは大いなる彼のものの流刑にて、破滅にはあらず。
 いかなる事情によるかは知らねど、ローマ人来たれり。マルクス・アントニウスなる、口うるさき鼻持ちならぬ巨漢にして、神も魔物も恐れざると自慢せり。多くのものが吾に愚かなる空威張りをなすも、クトゥルーの訪れによりのこりたる、七日もたちし悪臭をかげば、悲鳴をあげて逃げ出したり。されどマルクス・アントニウスは……いかにしてかくのごとき男が存在しうるのや。普通の者のごとく戦い、人を愛し、娼婦にうつつをぬかす者のごとく、愚かなる死に目にあった男というに。かくのごとき者が、吾の多大なる崇拝をいたせし大いなるものどもより偉大なることがあろうや。かようなことがあらば、吾は永遠に呪われようものを……否、断じてなきことなり。かようなことがあってはならぬ。
 吾は語らねばならぬ。記録しておかねばならぬ。このアントニウスと兵士たちが道に迷いたることを。飢えていたことを。彼らは馬の尿を飲みたり。馬を屠りてその肉を食らいたり――そのありさまにて、荒涼たる山を進みぬ。アントニウスが彼らの指揮官なり。おのれの力と忍耐を誇り、馬の肉を食らわず、兵士らに譲りぬ。進むほどに、谷――暗く翳りし山の窪み――にいたれり。されど澄みきった水が岩床を流れ、低い松があたりに茂りぬ。彼らは水を飲み、松を切って焚火を起こせり――されど飢えを満たすこと能わず。マルクス・アントニウスは誰よりも飢えたり。
 窪みの奥に洞窟あり。洞窟には動物が潜むものなり。動物は食物とならん。マルクス・アントニウスは兵士たちをひきつれ、洞窟のまえに行くも、そこで全員が立ちどまりたり。洞窟より悪臭が漂い、肉体に宿る魂を石化させるかと思えるほどのものなれば。誰も進もうとはせぬなか、アントニウスが兵士たちを腑抜けと呼びすて、洞窟の暗澹たる闇のなかに入りこみぬ。ただ一人きりで進みたり……
 沈黙。長き沈黙がつづきたり。するうち突如として、恐ろしくも、どこやらん地下の広大な場所にて、凄まじき戦いの繰り広げられる音声が響き渡りぬ。音声の一部は怒れるマルクス・アントニウスの雄叫びであり、それ以外のものの性質といえば、多くの者が悲鳴をあげて呪われた場所より逃げ出すほどのものなり。逃げ出した者は幸運なるかな。踏みとどまった者たちは、顔面蒼白、恐怖にすくみあがり、音声が徐々に近づいてくるのを耳にせり。忽然と洞窟より、もがきあうものがあらわれ、逆上して戦うアントニウスの全身は、おのれの血と敵の不快な粘液にまみれけり。アントニウスが白日のもとにひきずりだしたるものは、絶えて人が目にしたることなきものなり。槍にて屠ることかなわず、剣にて傷つけること能わざりき。かかる忌むべきものを目にしたる者らは、たちまち絶命して、魂が身体よりはなれぬ。
 そのものは助けを求め、黄昏が日輪を翳らせ、風を歩むものら、イタカ、ロイガー、ツァール、大いなるハスターの強大なる姿がおらびながらあらわれけり。アントニウスは恐れも見せずに呵呵大笑し、ギリシア人がゼウスと呼びし、天の王にして嵐の支配者なるユーピテルに呼びかけ、対等のものとしての助けを求めたり。さすれば、何たることか、風を歩むものどもやハスター、大洋より現出せしクトゥルー、いたるところおよび無より無定形に群がりたるヨグ=ソトース、彼のものの馳せ参じたる落とし子の皆に対して、ユーピテルが雷光を投げつけ、笑いながら猛然と進み、吠えたけって空を引き裂きながら、雷光を数多の鞭のごとくふるいて、彼のものの落とし子たちを追いはらいぬ。光と音の狂乱すさまじきなか、マルクス・アントニウスは死すべき人間のものとも思えぬ力をふりしぼり、大いなるものを攫みあげるや、兵士たちの熾せし燃えさかる炎のなかに投じたり。恐ろしくも彼のものが輝く燠のなかにて悲鳴をあげつつのたうつや、アントニウスは笑いながら薪を投げこみつづけ、炎のただなかにて彼のものは忌わしき絶叫をあげ、その恐るべき身体は黒ずみたる炭になりはてぬ。さらばマルクス・アントニウスは、神をも魔神をも恐れぬ男のなかの男なれど、飢えにさいなまれていれば、黒ずんだ殻を破り、湯気を放つ悪臭芬芬たる肉を見いだしたるも、形も色も臭いも厭わしきかぎりなり。なれど肉なれば、アントニウスはこれを食らえり。
 ああ、アントニウスは肉を食らえり。残忍なるローマの愚者アントニウスは、いまだ脈打つ大いなる彼のものの心臓を食らえり。かくして永遠に大いなる彼のものを滅ぼせり。彼のものがかくのごとき残忍なる勇気と食欲によりて滅ぼさるるなら、その子らに何が起こるや。吾がおのれの生命、それ以上のものをささげたるものらは、野の獣や勇気ある人間を支配する力もなし。(以上、ネクロノミコン最終章修正版)


ネクロノミコン Necronomicon
 ヘンリエッタ・モンタギュー女史が大英博物館所蔵の黒体文字版から翻訳した抜粋版。学究的研究のためにきわめて小部数が刊行された。


ネクロノミコン新釈
 ヨアキム・フィーリー著。ネクロノミコンを想像力豊かに再構成したガイドブックのようなものだが、信頼できる内容とはいえない。小冊子にすぎず、完全版と短縮版がある。

 ……日の高きうちは、鏡の表はイース=シェシュの水晶池の水面のごとくなめらかにして、あるいは溺れる者のおらぬときのハリ湖のごとく静まり返りて、門は固く閉ざされぬ。されど深き夜の魔の刻限、秘密を知る者は――あるいは秘密を慮る者もまた――必ずや見るであろう。暗黒の深淵にわだかまる異形の影を、その鏡のなかに。それはかつて鏡をのぞきし者らの具う。また、いかに鏡がとこしえに忘れられようとも、その魔力は滅びることなく、いつのときにかまた人の知るところとならん。

久遠に臥したるもの死することなく
怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん……


 魔のもの、悪のもの、深きもの、ドオルのもの、ヴォォマイのもの、タチョ‐タチョのもの、ミ‐ゴのもの、ショガオスのもの、ガアストのもの、ヴァルジアンのもの、ほか数多、〈大いなる旧きもの〉およびその仔らに仕えるものらなべてに抗しうる〈鎧〉こそ、古きムナアルの灰色の石より打ちいだしし五芒星のうちに秘められたり。されど〈大いなる旧きもの〉自体に抗するには足らず。この石を持つもの、戻る術とてなき淵源に忍び入るもの泳ぎ入るもの這い入るもの歩み入るもの飛び入るものすべてに命をくだす力を持つ。大いなるルルイエに似てイヒにても、ヨスに似てイハ=ンツトイにても、ゾシイクに似てユゴスにても、ナアア=フクおよびクン=ヤンに似てン=カイにても、グ=ハーンに似てカルコサにても、イブおよびルフ=イブの双子の邑にても、〈冷たき荒地〉のカダスに似てハリ湖にても、そは力を持つものなり。なれど星々褪せて冷えゆき、日は朽ちて星々の間も広がりゆけば、なべてに及ぶ彼の力も褪せゆくものならん。即ち、〈旧き善き神〉より〈大いなる旧きもの〉に及ばせし五芒星の石の魔の力も、一度時来たらば弱まるものならん。その時を知るべし

久遠に臥したるもの、死することなく
怪異なる永劫のうちには、死すら終焉を迎えん(『五芒星の力』の章より)


や な かでぃしゅとぅ にるぐふ・り すてる・ぶすな にょぐさ、く・やるなく ふれげそる る・えぶむな すぃは・ふ ん・ぐふと、や・はい かでぃしゅとぅ えぷ る・るふ‐ええふ にょぐさ ええふ、す・うふん‐んぐふ あすぐ り・ふええ おるる・え すぃは・ふ。(ワク‐ウィラジの呪文(ヴァク=ヴィラ呪文))


……かくて腐りし屍より命蘇るも、地蝋を漁るものあさましくもそれをいたぶり、蝋にて固め腫らして責め苦となすものなり……


ネクロノミコンにおけるクトゥルー Cthulhu in the Necronomicon
 ラバン・シュリュズベリイ博士の『ルルイエ異本を基にした後期原始人の神話の型の研究』の続編にあたる二番目の著書。出版物ではなく草稿で、ミスカトニック大学付属図書館に保管されている。

 きわめて知性ある者でさえこれら信じられぬ神話が現在にものこっていることに思いあたってはいないようだが、かかる信仰はあらゆる時間と共存し、あらゆる空間と接する存在を核としているため、いまなお現存することはありえないことではないはずだ。かかる存在の超次元的性質は科学の次元法則を超越する。物理法則を否定することによって、異世界の開口部を組織的に探し求めて封鎖できるかもしれないことまで暗に否定される。〈旧支配者〉は地球あるいは他の諸惑星で、支配を求める領域に召喚されれば出現できると、何度となく示されているからだ。これを疑う者は、インスマス沖の〈悪魔の暗礁〉での出来事を思い起こし、インスマスおよびニューベリイポートで現在なおも見かけられるかもしれぬ、妙に両生類的な人間に注意をむけるとともに、小説の装いをしたH・P・ラヴクラフトの著作にも目をむけるべきである。同様に、ある種の類似を研究すべきでもある――古代神話における〈風を歩くものイタカ〉と北米インディアンのウェンディゴとの比較、ケチュア=アヤル族の戦争の神〈むさぼり食うもの〉とクトゥルーとの比較を。このふたつを指摘しておくだけで十分だろう。類似はあまりにも明白である。
 懐疑家たちは現代の科学では説明づけられぬ特定の証拠を否定しつづけることによって、窮極的には諸惑星の運命をいま一度支配すると推定される、邪悪のあいだにおける反目を利用することを不可能ならしめる。その邪神は、究極的に睡りから目ざめて幽閉のための封印を新たなものにしなければならぬ全能の〈旧神〉に対して、休むことを知らぬ闘争をおこなうときにおいてのみ、結束をかためるのである。いまやその封印も、悠久の歳月のうちに力を失いつつある。懐疑家たちは、水没したルルイエならびに爆破されたインスマス港はるかな沖合いの海底にあるイハ=ントレイの円柱都市に住む、無尾両棲類〈深きものども〉といったクトゥルーの配下、そしてクトゥルーの半兄弟である〈名状しがたきものハスター〉に仕える蝙蝠の翼をもつ半人半獣の星間宇宙を旅するもののあいだで緊張が高まり、顔のない狂えるナイアーラトテップ、森の黒山羊シュブ=ニグラス、炎の生物クトゥグアに仕える原形質状の配下が再度産み落とされる可能性を無視している。ナイアーラトテップ、シュブ=ニグラス、クトゥグアのあいだには、おそらく破滅的な激怒にいたる永遠の反目が存在するのだ。聡明な頭脳の持主によって、ハスターおよびロイガーに仕える風の精の助けをかり、クトゥルーが出現する開口部を塞ぎ、クトゥグアの従者にナイアーラトテップおよびシュブ=ニグラスが潜む禁断の土地を破壊させなければならない。知識は力である。しかし知識は狂気でもあり、これら地獄めいた存在に対抗するのは心弱き者であってはならない。ラヴクラフトはこう記している。単に口にされるだけでも目眩めくような、時の渦中における位置について、そして宇宙について、人はその概念をうけいれる心がまえをしなければならない、と。

大いなるクトゥルーはルルイエより昇らん。名づけられざるものハスターはヒヤデス星団中アルデバラン近くの暗黒星より再来致さん……ナイアーラトテップは潜み棲みし闇の中にて永遠に咆哮し続けん。千匹の仔を孕みしシュブ=ニグラスは仔を産み続けん……(ルルイエ異本からの引用)


農業論
 マルクス・ポルキウス・カトー著。


ノートン版幽霊小説集
 ブラド・ライタウザー編。ヘンリイ・ジェイムズといったインテリによる最も陳腐な幽霊小説のアンソロジイ。


呪われたもの
 ビアース著。




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