バークリイの神父の著書
 書名、著者不明。バークリイで起こったバイアティスとの接触に関する記述がある。乱丁もしくは落丁がある。

 されどサタンは神のもとに生きる人びとに恐怖をあたえ、問題を起こすと考えられる。かつて聞いたことだが、ノートン氏が森の近くに住んでいたとき、怖ろしい唸りや声に悩まされ、ある夜は太鼓のひびきがすさまじかったため、それから一ヶ月というもの、農地には帰れなかったという。しかし読者を悩まさぬよう、それから二ヶ月とみたぬまえに農夫から聞かされた話を書きとめておく。
 ある夜、バークリイ街道を歩いていると、農夫のクーパーが左側の野原からあらわれたが、汚れきったなりをしており、怖ろしいものを目にしたことで震えあがっていた。哀れなトム・クーパーは持病が起こると常軌を逸するが、最初はそのように見えたものの、教会に連れていくと、神の存在がクーパーの心を癒したもうた。クーパーは善良なるキリスト教徒の道から逸脱させるため、悪魔がデーモンをつかわしたにちがいないと思っており、自分が目にした冒涜的な光景をお話しましょうかといった。
 クーパーが誓って申すには、家畜に被害をあたえる狐を追って、この厄介者の始末をつけようと思っていたところ、狐にふりまわされて農夫のキングとクックの土地近くまで行ったあげく、狐を見失ってしまい、川に近づいて家路についたという。いつも家に帰るときに利用するキャムブルック川を渡りかけ、中央で橋が崩れているのを知って仰天した。コーン・レイン近くのフォードに向かっていると、丘の上に尋常ならざるものを見た。光を放って輝いているようで、色は一つにとどまらず、子供の玩具の万華鏡のようだった。クーパーはぞっとしたが、丘に近づいてのぼり、そのもののすぐ近くまで行った。透明な鉱物でできており、いまだかつて見たことのない形をしていた。どういう見かけであったかを話してくれというと、クーパーは妙な目でわたしを見て、あまりにも邪悪な魔物だったから、キリスト教徒たるもの口にはできませぬと申した。わたしがそのようなデーモンに対抗する十分な知識を持っていると告げると、クーパーはそいつがキュクロープスのように目が一つしかなく、蟹のごとき鋏をもっていたと申した。アフリカで見られるという象のごとき鼻を備え、その顔からは海の魔物のごとく、蛇に似たものが髭さながらにはえていたとも申した。
 クーパーは天使の声にひかえろと命じられたにもかかわらず、邪悪な魔物の鋏にふれずにはいられなかったため、そのときサタンに魂を奪われたにちがいないことは救世主さまもご存じだと申している。するうち巨大なものが月をよぎり、クーパーは見あげまいとしたが、怖ろしい影が地面に投げかけられるのを見た。それを目にしたとき、神が幸いを忘れたかのごとく思いなされたと、クーパーが申しているので、わたしがその影のありさまを耳にすれば天に守ってはもらえぬだろうとクーパーが申したとはいえ、あながち神を瀆しているわけではないだろう。そしてクーパーは丘から逃げだし、キャムブルック川を泳いだのだった。そのあいだ、何らかのものが途中まで追ってきたらしく、背後に大きな鋏がたてる音が聞こえていたという。しかし何か邪悪な物音がするときにはいつもおこなうように、神への祈りを何度も口にしているうち、その音は聞こえなくなった。そうしてバークリイ街道を歩いているわたしと、ばったり出会ったのである。
 わたしはクーパーに、おかみさんが心配しているから家に帰り、悪魔がまたよからぬことをたくらむやもしれぬので、主への祈りをささげるようにと諭してやった。その夜わたしは、サタンのこうした怖るべき行為がわたしの教区より消えさって、地獄が哀れなクーパーを奪うことがないよう、ひたすらに祈りをささげた。
 しかし農夫クーパーの話はこれでおわったわけではない。二ヵ月後、農夫のノートンがこまりはてた顔であらわれ、森の轟きが以前より大きくなったと申した。扉を閉ざしてサタンのはたらきの徴に注意せよと告げる以外、慰めようもなかった。つぎにクーパーの女房がやってきて、亭主の具合が急に悪くなり、耳にするのも怖ろしい金切り声をあげてとびはね、森に向かって走っていったと申した。轟きがひどくなっている森に人をやるのは気が進まなかったが、森にわけいって悪魔の徴を見つけ、農夫クーパーを探しだすべく、農夫たちを集めた。農夫たちは森に行ってくれたが、すぐにもどってきてわたしを起こし、哀れなクーパーを連れ帰れなかったわけと、クーパーが悪魔にさらわれたにちがいないと思う所以について、きわめて面妖かつ怖ろしい話を語った。
 森がもっとも深いところで、木々のただなかから轟きが聞こえるようになり、これが何の先ぶれであるかがわかっているので、おそるおそる轟きの聞こえるほうに近づいてみた。太鼓が轟いているところまで行くと、農夫クーパーが巨大な黒い太鼓のまえに坐り、催眠の術にかけられたかのごとく目つきをして、アフリカの原住民さながらに荒あらしく太鼓を打ち鳴らしていた。農夫キングがクーパーに話しかけたが、クーパーの背後を見て、何が見えるかをほかの者たちに知らせた。探索にでかけた者たちが誓っていうには、クーパーの背後にバークリイの蟇よりも悍しく、このうえもなく冒涜的な姿をした、巨大な魔物がいたのである。蜘蛛や蟹や夢にあらわれる物の怪に似ているというので、丘にあらわれたものはこの魔物であったに相違ない。森のなかでデーモンを目にして、農夫キングは逃げだし、ほかの者たちもそれにならった。さほど遠くまで行かないうちに、農夫クーパーのものと知れるすさまじい苦悶の声が聞こえ、何やらん巨大な獣の唸りのごとき音声も聞こえたが、太鼓の音はやんでいた。数分後、巨大な蝙蝠のたてる音にも似た翼のはためきが聞こえ、遠くのほうへと去っていった。農夫キングらはどうにかキャムサイド・レインまでたどりつき、すぐに村にもどって、哀れなクーパーの最期を語ったのである。
 これは二年前のことだが、デーモンがなおも生きて、森のなかをさまよい、不注意な者を待ちかまえていることに、疑問の余地はない。村にまでやってくるのかもしれず、農夫クーパーを探しにいった者たちは、あれ以来魔物の夢を見るようになり、先頃死んだ男などは、何らかのものが窓からのぞきこみ、魂をひきよせると申したほどだ。それが何であるかはわからない。サタンが地獄よりつかわすデーモンであろうが、この地方の郷土史を読みふけっているダニエル・ジェナー氏がいうには、カエサルのブリテン侵略に先立つ遙かな昔からこの地に石造りの扉があり、その背後にローマ人が見いだしたものにちがいないとのことである。ともかく、サタンを祓う祈りをとなえようと甲斐はなく、善なるキリスト教社会を悩ますデーモンとは異なるものにちがいない。信者が森に近づかずにいれば、いずれ死にたえるやもしれぬ。さりながら面妖な噂によれば、数年まえにセヴァン・フォード近くに居をかまえしギルバート・モーリイ卿が、黒魔術によりて悪魔を支配できると語ったらしく、卿は冒涜の術によりて森の魔物をあやつれるのではないかと取り沙汰されている。


発狂した修道士クリタヌスの告白録
 修道士クリタヌスの告白録。


パンの大神 The Great God Pan
 英国の作家アーサー・マッケンが一八九〇年に発表した短編小説。
 脳手術の結果、禁断のパンの大神を目にした少女が生み落とした妖女ヘレンが男たちを性の秘奥に誘い自殺に追い込んでいく物語。ヘレンは最期に進化の過程を逆行するかのような悍しい変容を示す。


ピースリー体験談 Peasiee Narrative
 ナサニエル・ウィンゲイト・ピースリーの奇怪な体験を記した書物で、H・P・ラヴクラフトが代作したという。
 息子ウィンゲイト・ピースリーが出版し、物議をかもした。


ヒエロン・アイギュプトン
 聖なるエジプト。ペルガモンの羊皮紙にギリシア語で記されている。パピルス巻子もある。


光の書
 ゾハール。カバラの聖典。


秘密書記法 De Furtivis Literarum Notis
 イタリアの自然哲学者ジャンバッティスタ・ボルタ著。
 暗号関連の内容と推測されるが詳細不明。


秘密を見まもる者たち The Secret Watcher
 遼丹を服用して時間を旅し、ティンダロスの猟犬に殺された作家ハルピン・チャーマズの著書。

もしわれわれの知る生命と平行して、われわれの生命を破滅させる要素を持たず、死ぬことのないべつの生命があるとしたらどうだろう。おそらく異次元にはわれわれの生命を生みだしたのとはちがう力が存在するのだ。おそらくこの力はエネルギー、ないしはエネルギーに類似したなにかを放射し、それが未知の次元から到来して、われわれの次元において新しい形態の細胞生命体を創造するのだ。しかしわたしはそのあらわれを目にした。言葉をかわしもした。夜に自室でドールたちと話をしたのだ。そして夢のなかで、かれらの造物主を見た。わたしは時間と物質を超越したおぼめく岸辺に立って、この目で見た。それは奇怪な湾曲、驚くべき角度をよぎって動いていた。いつの日か、わたしは時間を旅して、それと顔を突き合わせるだろう。


淵みに棲む者 Dwellers in the Depths
 ガストン・ル・フェが著した海の魔物に関する悍しい書物。


フサンの謎の七書 The Seven Cryptical Books of Hsan
 大地の謎の七書とも。古代の神々に関する秘典らしいが、内容は不明。
 賢人バルザイは同書に精通していたという。
 ミスカトニック大学付属図書館とジュリアン・カーステアズ邸に保管されている。カーステアズ邸のものはカーステアズの死後どうなったのかは不明。


不思議の国のアリス Alice’s Adventures in Wonderland
 英国のファンタジー作家ルイス・キャロルが一八六五年に刊行した長編ファンタジー。
 ジョン・テニエルが描く同書の挿絵に登場する蛙男の絵には、深きものどもの特徴を連想させるものがあるという。


プナトニック写本
 ナコト写本のこと。


普遍的魔術 Ars Magna et Ultima
 偉大なる秘術、偉大なる秘密、大いなる秘法とも。
 十三世紀の錬金術師ライムンドゥス・ルルスの著書。実在する。イスラム教徒を改宗させる目的で書かれたという。


墳墓の屍体嗜食 De Masticatione Motuorum in Tamulis
 ミハイル・ランフツが一七三四年に刊行した書物。
 サイモン・マグロアが所蔵していた。


冒瀆者たち The Defilers
 パートリッジヴィル在住の短編小説家ハワードの短編小説。
 パートリッジヴィル・ガゼット紙に掲載されるや、地元の読者から怒りの手紙が三百十通送られた。


ポール・ウェンディー‐スミスの草稿
 失踪した伝奇(あるいは怪奇)作家ポール・ウェンディー‐スミスの原稿。
 彼に先んじてその恐怖を味わい、失踪を遂げた伯父エイマリー・ウェンディー‐スミスの手記やメモとともに地底から迫り来るシャッド‐メルの恐怖がつづられている。だが彼が作家であったことと伯父エイマリーが地震を研究していたことで新作の短編小説と思われ、1937年まで出版保留とされていたが後に短編集に収録されて出版された。なおそこには編集者によって両ウェンディー‐スミス失踪に関する警察官の報告書からの引用が添えられた。


北東スコットランドの原始信仰
 マクファースン著。


星から来て饗宴に列する者 The Feaster from the Stars
 作家ロバート・ハリスン・ブレイクが一九三四年から翌年にかけての冬の間に書き上げた五編の短編小説のうちの一編。


ポナペ島経典 Ponape Scripture
 A・E・ホーエイグ船長が一七三四年頃に南太平洋を探検中にポナペ島で発見し、アーカムに持ち帰った経典。
 椰子の葉の太い繊維でできたパーチメントに書かれているという。
 ムー大陸の秘密が記されているらしい。


ポリネシア人と南米大陸のインディオ文明の関連性の考察――ペルー考をふくむ An Inquiry Into the Relationship of the Peoples of Polynesia and the Indian Cultures of the South American Continent with Special Reference to Peru
 シャリエール医師の架蔵していた書物。


ポリネシア神話――クトゥルー神話大系に関する一考察 Polynesian Mythology, with a Note On The Cthulhu Legend-Cycle
 ハロルド・ハドリー・コープランド教授が一九〇六年に著した書物。
 そのオカルト理論の異様さにもかかわらず、科学研究の大作とされている。




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