マイケル・ヘイワードの原稿
 作家マイケル・ヘイワードが妖蛆の秘密に記されている時間遡行薬を服用して体験したことを小説の体で書いたもの。

 私は原初の世界に住んでいた。久しく忘れられた世界、アトランティスとキンメリアが栄えていた頃の世界、最早その記録は歳月を経て湮滅したため一切伝わらぬほどの悠久の太古の世界だ。
 原初の人類は太初のムー大陸に住み、忘れ去られた異形の神々、即ち、〈わたつみの深淵〉の山の如きク・リトル・リトル、〈蛇神〉イグ、〈輝ける猟師〉イオド、〈灰色の深淵ヤルナク〉のヴォルヴァドスらを崇拝していた。
 そして当時、異次元の宇宙空間より、或る存在が地球に飛来した。その惑星から全生物を殲滅せんとする残虐非道なる怪異なものどもである。これらの存在は彼等自身の衰滅に瀕した世界を捨てて、地球に移住し、この若く豊穣なる惑星に自らの巨大都市を建設せんと図ったのだ。
 彼等の到来とともに、凄絶なる闘争の火蓋が切って落とされ、邪悪な敵意を懐く侵入者等に対し、人類に好意的なる件の神々はここに勢揃いした。この大激戦で最も華々しく活躍した者、地球の神々の中で最も強大な者は、〈燃え立つもの〉ベル=ヤルナクのヴォルヴァドスで、彼の宗派の大祭司たる私が煽った……


魔術
 マーガレット・マレー夫人著。


魔術および暗黒の諸学
 →魔術と黒魔術


魔術と黒魔術
 ケイン著。


魔術の歴史
 エリファス・レヴィ著。エイマリー・ウェンディー‐スミスが所蔵していた。


魔女が吊されて The Witch Is Hung
 サイモン・マグロア作の病的な想像力に溢れる詩。
 エドワーズ記念賞を受賞した。


魔女信仰
 マーガレット・マレイ著。


魔女の審問 Quaestio de Lamiis
 ヴィネ著。
 ウライア・ギャリスンが架蔵していた。


魔女は蘇る!
 ジェラルド・ドーソン著。実話集。


魔女への鉄槌 Malleus Maleficarum
 ドミニコ会修道士ヤコブ・シュプレンゲルとハインリッヒ・クラメールが一四六八年に著した書物。
 悪魔や魔女、妖術師の脅威を説いた神学文書で、異端審問官御用達の魔女狩り手引書。

彼らの主なる行いの内に、生身の体のまま場所から場所へと移され……悪魔どもの幻影、幻夢に迷わされ、彼等が信じ告白するごとく、まさしく夜の刻限にある種の畜生に乗り……あるいは彼等のためにのみ造られし開口部より、空を歩みしことあり。魔王自ら、捕らえし精神の夢を迷わし、邪なる道に導けり……彼等、悪魔の指示により、幼児、なかんずく自ら殺めし幼児の四肢より軟膏をとり、それを椅子あるいは箒の柄に塗り、しこうして忽ちの内に、昼にまれ夜にまれ、あるいは姿を現し、あるいは姿を隠し、宙を飛びたり……


魔法使いの発見
 詳細不明。


魔法哲学
 トゥルバ・フィロゾファルム。哲学者の一群とも。伝説の智者ヘルメス・トリスメギストスが著したとされる著作。


マロクの妖術
 E・モーシャン博士著。


ミロウコー・クーリア
 ミロウコーの新聞。


無名祭祀書 Nameless Cults(英) / Unaussprechlichen Kuletn(独)
 フリードリヒ・ヴィルヘルム・フォン・ユンツト著。
 生涯を禁忌の学問に捧げ、世界各地の秘密結社に加わり、あらゆる未知の書に原典のまま通じていたフォン・ユンツトが世界各地を遍歴する過程で見聞した奇怪な伝承の類を書き留めた禁断の書物であり、彼が得た禁断の知識の集大成である。
 一八三九年にデュッセルドルフで刊行された鉄の留め金が付いた革装丁の初版本は暗澹たる内容から『黒の書』と呼ばれ、フォン・ユンツトの謎めいた死に怯えた所有者のほとんどがこの書物を処分してしまったため、現存するものは六部もないだろうとされている。
 一八四〇年、モンゴルへの謎めいた旅から帰還して六ヵ月後に、フォン・ユンツトは鍵と閂のかかった密室で喉に巨大な爪痕を残した死体となって発見された。その部屋の床には『無名祭祀書』に収録されていない草稿が破り捨てられており、これを復元して読んだフランスの友人アレクシス・ラドーは、読み終えるなり草稿を火にくべ、剃刀で喉を切って命を絶った。
 その後、一八四五年に欠陥が多く安っぽい海賊版としてブライドウォールが英訳してグロテスクな木版画と誤植、誤訳、誤りを満載してロンドンで出版し、一九〇九年にニューヨークのゴールデン・ゴブリン・プレスが原典の四分の一を削除し、ディエゴ・ヴァスクェスの挿絵に飾り立てられた削除版を出版した。写本がハンティントン図書館に所蔵されている。
 クナアにおけるガタノトーア崇拝と神官トヨグについての記述、ホンジュラスのジャングルにある蟇の神殿についての記述がある。ムー大陸の資料を提示し、ポナペ島経典による情報を完全に裏書きしている。
 補遺\にエイボンの書についての年表があるが、ユンツトはギリシア語版のことを知らなかったためギリシア語版については記されていない。

神殿の神こそ神殿の霊宝なり


メキシコの征服
 歴史家プレスコットの著書。


モーゼの第七の書 Seventh Book of Moses
 ペンシルヴァニアの迷信深い一部の老人たちが珍重するという悪名高い書物。安っぽいまがい物の本で、聖書の外典のように見せかけられている。キリスト、十二使徒、四人の福音書著者のことをモーゼが記した体裁をとっている。
 モーゼが書いたとされる第一から第五の書は旧約聖書の『創世記』以下の五章にあたり、第六の書は『出エジプト記』にあたる。第七の書以降は本来存在するはずがなく、本書は中世以降に偽作された魔術書であるらしい。
 第八、第九の書まで出現している。


物の本質について
 ルクレティウス著。


モルモン経
 モルモン教として知られる末日聖徒イエス・キリスト教会の聖典の一つ。


モンマスシャー、グロスタシャー、バークリイの妖術覚書き Notes on Witchcraft in Mommouthshire, Gloucestershire, and the Berkeley Region
 サングスター著。モーリイ卿にまつわる恐ろしい伝説を伝えている。

 この魔物がいったい何であるか、そもそもどこからやってきたのか、これ以前に関連する伝説がどうしてないのかといった疑問には、読者各位が答えなければならない。それらしき答はいくつかある。この魔物はおそらくバイアティスであって、人類よりも古くから存在するこの生物は、かつて神として崇められていた。伝説によれば、ローマ人のブリテン侵攻に先立つ遙かな昔のものとされる建物において、ローマの兵士が石造りの扉の背後にいたバイアティスを解き放ったという。農夫クーパーが目にするまで、バイアティスの伝説が存在しない理由については――実際にはさまざまな伝説がありながらも、それとわからぬ形のものであるため、後世の伝説と結びつけて考えられることがなかったのである。恐るべきバークリイの蟇は明らかにバイアティスと同一であって、バイアティスは単眼でありながらも、時に口先が縮むと、おおよそ蟇のように見えるのだ。いかにしてバークリイの土牢に閉じこめられ、ついには逃れだしたのかは、伝説では語られていない。催眠の力を有しているので、誰かを催眠術にかけて扉を開かせたのかもしれないが、この力は獲物を無力にするためにのみ用いられるらしい。
 バイアティスは農夫クーパーとの出会いがあった後、セヴァンフォードはずれの長らく無人であったノルマン人の城に住みついた、ギルバート・モーリイ卿なる人物によって森から召喚された。くだんのモーリイは近在の者たちに久しく忌避されていた。理由は定かではないが、モーリイはサタンと契約を交わしたと噂されており、ある塔の窓に蝙蝠が群がるありさまや、しばしば谷にたれこめる霧のなかにあらわれる奇怪なものを、近在の者たちは恐れていた。
 ともかく、モーリイは森で邪悪な眠りにつく魔物を目覚めさせ、バークリイ街道をはずれた居城の地下室に幽閉したが、その城はいまや跡形もない。モーリイはバイアティスを捕えているあいだ、その宇宙的活力を得て、クトゥルー、グラアキ、ダアロス、シュブ=ニグラスの放つ思念をうけとりつづけた。
 モーリイは旅人を居城へとおびきよせ、地下室近くまで連れていき、そのなかに閉じこめたのである。犠牲者があらわれないときには、魔物を放って食事をさせた。夜遅く家路につく者が、怖ろしい有翼生物のあとにつづいてモーリイが空を飛んでいる姿を見て、心底震えあがったことも一、二度あった。ほどなくモーリイは魔物を城の秘密の地下室に閉じこめざるをえなくなったが、伝説によれば、魔物が食事の量に比例して、地下室にはおさまりきれぬほど巨大化したためであるらしい。魔物は昼にはここにとどまり、暗くなると、モーリイが秘密の扉を開けて解き放った。夜明け前にもどってくると、モーリイももどって、ふたたび魔物を閉じこめる。扉が閉ざされているあいだ、扉に何らかの印があることで、魔物は自由に動けない。ある日、モーリイが魔物を閉じこめたあと、そのまま姿を消して二度ともどらなかった(扉が閉ざされたのは確かで、城を調べた者はどこにも秘密の扉を見つけられなかった)。城は住む者もないままに朽ち果てていったが、秘密の扉は何一つそこなわれてはいないようだ。伝説によれば、バイアティスがなおも秘密の部屋に潜み、秘密の扉を開ける者がいれば、いつでも目を覚まして逃げだすという。


屋根裏の窓 The Attic Window
 ランドルフ・カーターが執筆した怪異譚で、『ウィスパーズ』誌の一九二二年一月号に掲載された。


山小屋の住人
 フランク・ベルナップ・ロング著。


ユカタンにおけるナフア文化の考証
 詳細不明。


遊牧騎馬民族マジャール人の民話 Magyar Folklore
 ドーンリイ著。
 夢の神話を扱った章には黒い石にまつわる奇妙な迷信のいくつかが紹介され、とりわけ独立石の近くで眠り込むとそれ以後恐ろしい悪夢に取り付かれるようになるという信仰をとりあげて、真夏の夜に黒い石に近づいて何かを目にしたために狂死した人々に関する農夫たちの話を引き合いに出している。


ユゴス星の黴
 H・P・ラヴクラフトが1929年に書き上げた詩。

かくしてついに内なるエジプトより
尋常ならざる暗きもの来たりて
農夫ら額衝きぬ
……野獣ども其の跡につづき
其の手を舐めん
たちまち滄溟より凶まがしきもの生まれいずる
黄金の尖塔に海藻のからまりし忘却の土地あらわれ
大地裂け 揺れ動く人の街の上には
狂気の極光うねらん
かくして戯れに自ら創りしものを打ち砕き
白痴なる〈混沌〉 大地を塵芥と吹きとばしけり


ユダヤの魔術と迷信
 トラヒテンベルク著。


妖術師論 Discours des Soeciers
 フランスの法学者アンリ・ボゲが一六〇〇年に著した書物。
 悪魔学の古典的名著として知られている。


妖術論 Commentaries on Witchcraft
 マイクロフト著。
 サイモン・マグロアが所蔵していた。


妖蛆の秘密 Mysteries of the Worm(英) / De Vermis Mysteriis(独)
 ルドウィク・プリンが獄中で執筆し、その原稿が著者の処刑の一年後の1542年にケルンで刊行された。全十六章からなる。
 ドイツ語装飾文字版と、チャールズ・レゲットがドイツ語版から訳した英訳版がある。
 大英博物館稀覯書部には保存状態が極めて悪く半分しか残っていないラテン語版と、ドイツ語装飾文字版と『サラセン人の(宗教)儀式』のみの僧Xによる不完全な英訳版がある。
 ジュリアン・カーステアズ邸には『サラセン人の(宗教)儀式』のほとんどが切り取られている英訳版がある。版は不明だが、ハンティントン図書館稀覯書保管室にも一部保管されている。
 セベク神の神官に殺されたオカルティストのヘンリカス・ヴァニングがエイボンの書、屍食教典儀の初版本などとともに所有していた。
 前世の記憶を蘇らせる時間遡行薬の処方と服用の際の注意書きが記されている。注意書きの通りの予防措置を取らずに服用すると異次元からの侵入者があるが、その侵入者はヴォルヴァドスの前に退散する。
 人間を超える長寿を実現するために肉体を爬虫類化する手術の説明がある。それは皮膚を伸ばすために多数の切開をし、尾骨の拡張を目的として脊柱を十字切開するなどである。イオドについての記述があり、秘められた世界を経由して魂を狩りたてるもの、輝く追跡者と表現されている。アフリカと伝説のレン高原の信仰のつながりや、魂を盗む奇怪な指輪についての言及がある。
 特に中東地域の異端的信仰に詳しく、『サラセン人の(宗教)儀式』と呼ばれる有名な章は十字軍時代のことという触れ込みだが、プリンがエジプトやオリエントを旅したときのことが記されていて、暗黒のファラオたるネフレン=カのことと数秘術、魔術師のこと、イスラムの悪魔や鬼神の伝承、暗殺教団の秘密、アラビアの食屍鬼譚、熱狂派修道僧の秘められた悪習についてのこと、プリンがアレクサンドリアの予言者から教わったこと、砂漠の旅、ナイルの知られざる渓谷で密かに行った墳墓荒らしなどについて記されている。

ティビ・マグナム・イノミナンドゥム・シグナ・ステラルム・ニグラルム・エト・ブファニフォルミス・サドクァエ・シギラム……


 蛇を髭のごとくはやす忘却の神バイアティスは、旧支配者とともに異星より訪れ、深きものどもが地球にもたらしたバイアティスの偶像に敬意を表することで召喚される。生ける者が偶像にふれることによっても召喚される。バイアティスの眼差しは心に闇をもたらし、バイアティスの目を見る者は、なすすべもなくバイアティスの魔手にかかるという。こうした者たちを喰らい、その生命力の一部を得ることで、バイアティスは巨大化する。


叡智優れるアルハザードは早くより妖蛆の為せる業を目にし、深く究めたり。その言は常に謎めくが、廃都アイラムの妖蛆魔道士らの用いし暗号と妖術を巡りて述べたるところより謎深きものはなし。
「最下の洞窟(とアルハザード記す)、その驚異こそ奇怪にして恐るべきものなれば、窺い見ることを得ず。死せる思念新たに活命し、面妖にも肉をまといし地こそ呪われたり、頭備えぬ魂こそ邪悪なり。賢しくもイブン・スカカバオ言いけらく、妖術師の横たわらぬ墳墓は幸いなるかな、妖術師なべ死灰と化せし夜の邑は幸いなるかな。何となれば古譚に曰く、悪魔と結びし者の魂、納骨堂の亡骸より急ぐことをせず、遺体をむしばむ蛆を太らせ指図すればなり。さるほどに腐敗の内より恐るべき生命うまれ、腐肉をあさる愚鈍なるものども賢しくなりて大地を悩まし、ばけものじみた大きさになりて大地を苦しめん。細孔あるのみにて足るべき大地に大いなる穴ひそかに穿たれ、這うべきものども立ちて歩くを学び取りたり……」
 われルートヴィヒ・プリン、シリアに旅せしとき、信じがたいほどに年老いたる一人の魔術師を見たり。この者、指定せし刻限に妖蛆の呪文を唱え、自ら選びし歳の若者の?に己が魂を移し替えたり。そのありさまたるや……〈編者註・この魔術師が自分の肉体を溶解して別人の体内に侵入せしめるさまをプリンは詳細に描写しているが、不用意に読者の目にさらしうるものではない――僧X〉(サラセン人の宗教儀式の僧Xによる英訳版)


 人の名とその数は蓋し重要なるもの也。前者を知れば、魔術師はその者の人格を知り得る也。後者を知れば、その者の過去現在未来を知る。特に未来は魔術により支配することも叶う。仮令その者の死後也とも!(サラセン人の宗教儀式)


 魔術妖術の類を用うる者より物品を贈らるること勿れ。盗める物なれば盗むもよし、購える物なれば購うもよし。手に入れらるる物なれば手に入るるは可――ただし贈り物として受け取ること勿れ。供与と雖も遺譲と雖も。(サラセン人の宗教儀式)


 魔術を用うる者、蓋し友愛の握手に応ずることはなし。特に妖蛆魔術師が握手を拒むは凶兆也。また、一度握手を拒みし妖蛆魔術師が、後に翻って応ずるは、さらに悪しき兆し也!(サラセン人の(宗教)儀式)


妖精の書 The Writings of Pnom
 ノームの書。ムー・トゥーランの魔道士エヴァグが所持していた書物。
 強力な呪法の書であるらしい。


妖魔の樋口(妖魅の樋口) Gargoyle
 怪奇作家エドガー・ゴードンの代表作。
 宇宙の最果ての暗黒都市やその奇妙な住民、超地球的な生命形態などにかかわる物語であるという。


ヨス写本 Yothic Manuscripts
 ヨス最大の都市ジンの地下から発見された古代文書。
 ツァトゥグアの縁起が記されている。


ヨハネス・ヘンリカス・ポットの著書
 あまりに恐ろしい内容ゆえにイエナの出版社に上梓を拒否されたヨハネス・ヘンリカス・ポットの無名の著書。
 これに記されたおぞましい不死の秘法はある程度信頼のおけるものである。


ヨハンセン手稿
 ノルウェー人航海士グスタフ・ヨハンセンの手稿。
 1925年3月22日、エンマ号の二等航海士であったヨハンセンが快速船アラート号の襲撃を受けながらもそれを逆に拿捕し、翌23日に南緯47度9分、西経126度43分43秒の地点においてかつて誰も発見したことがないある島に漂着した。本稿にはその恐るべき巨大石造建築や、探検中にクトゥルーの襲撃を受けただ一人生還したことが記されている。
 1976年、ウィルマース財団がヨハンセン手稿に記された座標を調査船と潜水球を以ってして調査を行ったところ、まさに大いなるクトゥルーが幽閉されたるルルイエが水没していることを確認し、概算ではその面積が50万平方マイルにも及ぶことを突き止めた。
 グスタフ・ヨハンセンは4月12日に操舵不能に陥ったアラート号に乗って漂流しているところを南緯34度27分、西経152度17分の洋上でモリスン商船会社のヴィジラント号により発見、救助される。後に故郷オスロに戻るも、ジョージ・ギャマル・エインジェル教授同様に謎の死を遂げた。


夜の魍魎 Night-Gaunt
 怪奇作家エドガー・ゴードンの初の単行本。病的なテーマのために失敗した。


ラグナールの石
 〈血まみれ斧〉ラグナールの墓石。これに触れた者はラグナールの呪いにより殺害される。

魔女の血に濡れし大斧ここにあり
刃は鋭く狙い正鵠なり
戦起こりしときつねに
大斧自らを染める 緋色の血流に

この墳墓 侵さんとする者あらん
そのとき海蛇丸の影 黒々と迫らん
ラグナールが霊 侵犯者に災禍もたらさんがため
己が呪いの渇き 癒さんがため!


ラザラス・ヒース――記録
 ラザラス・ジョン・ヒースの航海日誌であるとともに日記。
 最初の書き込みは192*年2月21日。彼の乗った船が難破して海図に載っていない島でゾス・サイラの花婿として迎えられ、その仲間であるヨス・ザラとなったこと、その約一年半後に自分とゾス・サイラの娘カッサンドラを連れて深淵の都から逃げたこと、娘についての不安が記されている。

 わたし、ラザラス・ジョン・ヒースは、健全な肉体と精神を備える者であり、自然のものであろうとなかろうと、いかなるものにも影響されない状況下で、右に記したことが真実であることを本日ここに主張する。わたしの話は夢ではない。実際に起こったことであって、二度と起こらないように全能の神に祈る。一見すると、これを読む者には、酔いどれのたわごとの特徴がそろっているように思えるだろうが、事実をよく考察して、海の伝承を調べるなら、別の結論に達するはずである。
 古代の書物には、異様な抵抗しがたい歌でもって、人間を誘惑して死やさらにひどいありさまにいたらしめる、悍しくも美しい海の存在、セイレーネスについて記されている。記録によれば、この種族は邪悪にも黒魔術を実践したために地上から追放されたという。セイレーネスは大洋の岩の多い危険な浅瀬にかえられた。石にかえられたのである……
 深淵について囁かれる伝説は、別の話を語っている。そう、確かに囁かれているのだ。彼らの種族は記録されているように追放されたが、彼らがかつて支配していた深海に追いやられただけなので、彼らは陰鬱に孤独に深淵の民をもうけ、この種族が時の果てに潜んでいる。ふたたび自分たちの存在を明らかならしめ、計り知れない太古に追放された世界をわがものにするときが訪れるまで、紺碧の大洋の深淵で安全なのである。わたしは彼らの一員だった。わたしを通して、彼らは攻撃を願ったのだと思う。わたしは彼らにとって、わたしたちの知るこの世界との接点だった。わたしは彼らの満たされない不満を耳にした。彼らは解放が遅れているのにいらだっている。用心することだ。彼らはわたしを求めた。確かにわたしは逃げ出したが、それでもなおわたしは彼らの一員である。結局はまた捕えられるだろう……が、かなうことなら、生きて捕われたりはしない。深淵を逃げ出してからの苦悩の日々のあいだ、彼らの歌、果てしない異端の歌を耳にしつづけている。これまでのところは堪えているが、わたしは弱くなりつつある。いつの日か、彼らが勝利を収めることだろう。しかしわたしが恐れているのはこれではない。わたしが彼らの大義の裏切り者として死ななければならないことはわかっている。わたしが唯一恐れるのは、わたしが逃亡したときにゾス・サイラの娘を連れだしたことが、いつの日か、どのようにしてか、彼らに知られることである。娘が奪われないことを神に祈る……カッサンドラは、わたしのように、彼らの一員なので……


リクォリアの伝説
 オズワルド著。


慄然たる神秘 Horrid Mysteries
 グロッセの公爵が著した稀覯書。
 ジョン・コンラッドがその十八世紀版を架蔵しているが、詳細は不明。


龍脚類の時代 The Saurian Age
 バンフォート著。
 シャリエールが架蔵していた。


両世界評論 Revue des deux mondes
 1829年から刊行されているヨーロッパの文学、特にフランス文学、音楽、演劇、更には哲学・政治等に関する評論総合雑誌。


ルルイエ異本 R’lyeh text
 ルルイエで記されたクトゥルー崇拝にかかわる禁断の書物。中国語訳がある。
 エイモス・タトルはアジアの暗い内陸部から人間の皮膚で装丁された写本を十万ドルを費やして入手した。
 一部がミスカトニック大学付属図書館に保管されている。

フングルイ ムグルウナフ クトゥルー ルルイエ ウガフナグル フタグン

大いなるクトゥルーはルルイエより昇らん。名づけられざるものハスターはヒヤデス星団中アルデバラン近くの暗黒星より再来致さん……ナイアーラトテップは潜み棲みし闇の中にて永遠に咆哮し続けん。千匹の仔を孕みしシュブ=ニグラスは仔を産み続けん……


ルルイエ異本を基にした後期原始人の神話の型の研究 An Investigation Into the Myth-Patterns of Latterday Primitives With Especial Reference to the R’lyeh Text
 ラバン・シュリュズベリイ博士の著書。

あらゆるクトゥルーの物語は直接あるいは間接に海に関連しているため、議論の余地なく海洋に起源を発するように思われる。クトゥルーに由来すると思われる顕現、クトゥルーの従者たちの行動についての物語がこれを裏づける。アトランティス伝説の有効性はさほど確かなものではないが、調査もせずに無視してはならない外面的な類似性が明らかに認められる。かれらの活動拠点はつぎの八ヶ所であるように思える。一、南太平洋上カロリン諸島内のポナペを中心とする海域。二、マサチューセッツ州インスマスの沖合を中心とする海域。三、インカのマチュ・ピチュの古代要塞を中心とするペルーの地底の湖。四、エル・ニグロのオアシス近辺を中心とする北アフリカおよび地中海一帯。五、メディシン・ハットを中心とするカナダ北部およびアラスカ。六、太平洋上アゾレス諸島を中心とする海域。七、メキシコ湾内の某所を中心とするアメリカ南部一帯。八、アジア南西部、埋もれた古代都市(円柱都市アイレムか)に近いといわれるクウェートの砂漠地帯。


レメゲトン
 ソロモンの小さな鍵。多くのグリモアの集大成。


錬金術研究覚え書き Remarks on Alchemy
 英国の高名なオカルティスト、E・A・ヒッチコックが一八六五年に著した書物。
 アクロ文字への断片的言及があるという。


錬金術の鍵 Clavis Alchimiae
 クラヴィス・アルキミユ。十七世紀英国のカバラ学者ロバート・フラッドが一六三三年に著した書物。
 錬金術とカバラを擁護する内容だという。


六十石 Hexecontalitho
 →イシャクシール




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