アーノルド・ハードの日記
 前ブリチェスター大学教授アーノルド・ハードの日記。
 出所不明の奇妙な音が鳴る土地の調査について記録されており、スグルーオ湾の住民との夢の交流や、グラーキの黙示録にあるスグルーオ湾との交感装置を作成したことが記されている。


アイザイア・ホーナーの日誌、紀元一七一一年のブラック・スター号の航海の真の記録
 武装海賊船ブラック・スター号二等航海士アイザイア・ホーナーの日誌。
 黒髭の船と遭遇したこと、サンタ・マリーア号がアマゾン流域から略奪してきた黄金の櫃の中に入っていた闇によって沈められたことが記されている。


アインシュタイン
 シューバート著。


アウトサイダー及びその他の物語 The Outsider and Others
 H・P・ラヴクラフトの最初の作品集。オーガスト・ダーレスとドナルド・ワンドレイが1939年にアーカム・ハウスを設立して発行した。36編の物語とエッセイ『文学における超自然的恐怖』を収録する。


アエネーイス
 詳細不明。


悪魔崇拝 Daemonolatreia
 フランスの異端審問官ニコラス・レミがレメギウスの名で表した。1595年上梓。魔女と妖術に関する資料集で、魔女裁判における異端審問官の参考書。


悪魔性 Daemonialitas
 フランチェスコ会修道士ルドヴィコ・マリア・シニストラリ著。1875年に完全版が発見された。主に夢魔の問題を扱っている。

彼等定められし時に生贄と供物を捧げんと悪魔に約せり。即ち十五日毎、あるいは少なくとも一ヶ月の内に、幼児を殺すか成人を毒殺し、また七日毎に、人間に害を及ぼす邪悪のことども、雹、嵐、大火、動物の死をもたらさんと……


悪魔の逃亡(悪魔の遁走) Fuga Satanae
 悪魔の遁走。ペルトス・アントニウス・スタンパ著。悪魔祓いに関する書物。


悪魔の本性について De Natura Daemonum
 イタリアの悪魔学者ジョヴァンニ・ロレンツォ・アナニア著。


アザトースその他の恐怖(アザトホースその他の恐怖) Azathoth and Other Horrors
 エドワード(エドマンド)・ピックマン・ダービイの悪夢めいた叙事詩(幻想詩集)で、彼が18歳のときに刊行された。
 五つの鋭角を持つ星形を〈はるかに大いなる神々〉に対抗するための武器のひとつであることを明確に述べている。


アストゥリアスのルアルカの郷士、パンフィロ・デ・サマコナ・イ・ヌーニェスによるクシナイアンの地下世界に関する報告、一五四五年 RELACTION DE PANFILO DE ZAMACONA Y NUNEZ HIDALGO DE LUARCA EN ASTURIAS,TOCANTE AL MUNDO SOTERRANEO DE XINAIAN.A.D.MDXLV
 一五四〇年にメキシコから北の荒野に入り込み、一五四二年に戻ってきたフランシスコ・ヴァルクェス・デ・コロナドの探検隊の一人だったパンフィロ・デ・サマコナ・イ・ヌーニェスがクン=ヤン(クシナイアン)の青く輝くツァスで紙のようなものに緑色の染料で記し、クトゥルーらがもたらしたトゥルー金属の筒に入れてあった手記。
 著者はクン=ヤンから脱出しようとしたが、結局かつての協力者であったトゥラ=ユブの首なしのイム=ブヒに捕えられて自身もイム=ブヒにされた。トゥラ=ユブのイム=ブヒと戦ったときに投げ出されたのか、この手記はオクラホマのビンガーにあるクン=ヤンへの通路のそばに埋まっていた。後にインディアンの幽霊話を調査して関連付けようとする者に発見される。
 クン=ヤンに入り込んで丁重な扱いながらも囚われ、青く輝くツァスとその住民、社会の現状と過去のこと、ド=フナに広がる過去の機械文明のなれの果て、赤く輝くヨスの廃墟とその下に広がるツァトゥグアがいた(いる)とされるンカイの黯黒世界のこと、トゥルー金属のことなどが記されている。だが詳細は記すことをためらわれ、省略されている。

RELACTION DE PANFILO DE ZAMACONA
Y NUNEZ HIDALGO DE LUARCA EN
ASTURIAS,TOCANTE AL MUNDO SOTERRANEO
DE XINAIAN.A.D.MDXLV

En el nombre de la santisima Trinidad, Padre,
Hijo, y Espiritus-Santo, tres personas distintas
Y un solo. Dios verdadero, y de la santisima
Virgen nuestra Senora, YO PANFIRO DE ZAMACONA,
HIJO DE PEDRO GUZMAN Y ZAMACONA HIDALGO,
Y DE LA DONA YNES ALVARADO Y NUNEZ DE LUARCA.
EN ASTURIAS,juro para que dixo esta verdadero como
Sacramento....

(聖なる三位一体、父と子と聖霊、
三つの位格にして一人なる人の名において、
真の神、聖母マリーアよ、
アストゥリアスのペドロ・グスマン・イ・サマコナ・イダルゴと
ドーニャ・イネス・アルバラド・イ・ヌーニェス・デ・ルアルカ
の息子である我、パンフィロ・デ・サマコナは、
信じられぬことどもをここに語る)


アトランタリオン王統べるアトランティス
 詩人ドナルド・シドニー-フライヤー翻訳。
 現代からおよそ一万五千年も昔、アトランティス大陸が水没する直前に書かれた。


アトランティス
 紀元一八三年の作といわれるプラトンの著書。


アトランティスと失われたレムリア(大陸) Atlantis and the Lost Lemuria
 英国の神智学者W・スコット・エリオット著。1896年上梓。


窖に通じる階段 The Stairs in the Crypt
 ロバート・ハリスン・ブレイク著。短編小説。


あの世に何が存在するか
 詳細不明。


アブホート石材
 一九八七年の発掘で見つかった玄武岩の小像に刻まれていた記述。これに刻まれていた楔形文字はフェニキア人やアッシリア人のものというよりもむしろヒッタイト人のもの。

ピトカナスの前(あるいは下)に偉大な老人たちが住んでいた

トゥダリヤスは暗黒王アブホートに臣下の礼をとった


アフリカ各部の考察 Observation on the Several Parts of Africa
 十八世紀英国の探検家ウェイド・ジャーミンの著書。コンゴ一帯をつぶさに踏査した知見に基づく先史時代のコンゴの白人文化についての異様な考察。


アメリカにおけるキリスト者の偉業(アメリカにおけるキリストの大いなる御業) Magnalia Christi Americana
 ボストンの牧師コットン・マザーが一七〇二年に著した初期ニューイングランドの教会史。


アメリカの清教主義における異郷のなごり
 北カリフォルニアのアフトンにあるファースト・メソジスト教会の牧師ピーター・リーランドが執筆しようとしていた研究論文。


アメリカの民俗学紀要
 民俗学に関する書物。


アル・アジフ Al Azif
 キタブ・アル・アジフとも。ネクロノミコンの原典。紀元730年にダマスカスでアブドゥル・アルハザードによって著される。題名の意味はアラブ人が魔物の咆哮と考えていた夜に鳴く虫の声。
 950年にコンスタンティノープルのテオドラス・フィレタスによって『ネクロノミコン』の表題でギリシア語に翻訳されたが総主教ミカエルによって発禁・焚書処分にされた。その後、16世紀にイタリアで印刷される。
 1228年にオラウス・ウォルミウスがラテン語に訳したときには既にアラビア語版の写本と原典は失われていたというが、その一部は無名都市の地下、拷問によって死亡したアルハザードの墓に隠されていた。ラテン語版は十五世紀のドイツでゴチック体で、十七世紀のスペインでスペイン語に翻訳されて、それぞれ印刷されている。
ギリシア語版、ラテン語版ともに1232年に教皇グレゴリウス九世によって出版が禁止された。
 金銀のアラベスク模様を施した黒檀装丁。一部ずつジュリアン・カーステアズ邸とジョン・カーンビイ邸に保管されていた。その死後どうなったかは不明。


暗号 Kryptographik
 シックネス著。


暗号解読 Cryptomenysis Patefacta
 ウィリアム・ファルコナーが著した暗号解読に関する文献。


暗号学
 クリューベル著。


暗号書
 フサン著。


黯黒儀式(暗黒の儀式) Black Rites
 エジプトの猫神バストの神官ラヴェ=ケラフの著した魔道書。


暗黒の大巻 Black Tome
 超古代の大妖術師アルソフォカスが著した伝説の写本。旧支配者を召喚する邪悪な呪文の数々が記されているという。


イェグ=ハの王国
 タイタス・クロウが著した短編小説。ラヴクラフトが創造した世界を基にローマ帝国領時代のイングランドを舞台として、いわゆる蕃神信仰を扱ったもの。フィクション。
 グロテスク誌に発表されたときに大いに物議をかもした。


イオドの書
 ジョウハン・ニーガスが翻訳した、奇妙な伝説がなおもとりついている古代秘教の呪文を記した忌まわしい法外な書物。原本は人類誕生以前の古代語で記されており、ただ一部のみが現存するという。なおジョウハン・ニーガスが翻訳したものは削除版である。

 暗き沈黙のものが西の大洋の岸の地底に住まいする。隠された世界や他の星より到来した強大な旧支配者の一員ではない。このものこそ、最後の破滅、劫初の夜の不滅の空虚にして沈黙だからである。
 大地が死に、生命が消え、星たちが暗くなるとき、彼のものがふたたび立ちあがり、支配地を広げる。生命や陽光とはいっさいかかわりがなく、深淵の闇と永遠の沈黙を好むがゆえである。しかしその時が来たるまえに、彼のものを地表に呼びだすことは可能であり、西の大洋の岸に住む褐色の民が、遙か地底の彼のものが棲まうところに届く深い音色の音と古代の呪文によって、これをおこなう力を有している。
 しかし斯様な召喚には大なる危険があり、その時が来たるまえに彼のものが死と夜を広めぬようにしなければならない。光のなかに闇をもたらすからである。彼のものの訪れとともに、すべての生命、すべての音、すべての動きが果てる。彼のものは食の時に来たることもあり、名前をもたざるも、褐色の民はズシャコンとして知る。


碑の一族 The People of the Monolith
 石碑の民、石碑の人びととも。狂気の天才詩人ジャスティン・ジョフリイの詩。
 ハンガリー旅行中、シュトレゴイカバールで目にした黒い石に触発されて書かれた。

太古の民 碑に戒めを刻みたり
冥界の力を用うる者
おのずからに災禍を降らしめ
弔わんとて弔わるることなかれと……(以上、第二節)

おお 女王よ 生きながら廟に閉ざされ
その玉座 もはや呪われることもなからん

女王の秘密 ピラミッドの下に埋められ
沙漠の砂 跡形もなく覆いつくさん

〈鏡〉もともに葬られ
深き夜に異界よりの〈魔〉を映さん

かくて〈魔〉とともに囚われ
女王 怒りのうちに――死なん!


イシャクシャール Ixaxar, Ishakshar
 リビア奥地の秘境に生息していた人に似て人ならざる種族が崇める黒い石。その表面に六十の古代文字が刻まれているために『六十石』とも称される。
 イオドを召喚する呪文についての記述がある。暗号文書であるらしい。


イステの歌 Song of Yste
 時にネクロノミコンやエイボンの書と並び称される魔道書。ディルカ一族が伝説的な形態から黎明期の三大文明の言語に翻訳し、後にギリシア語、ラテン語、アラビア語、エリザベス期の英語に翻訳した。
 一般のオカルト愛好者や最低限必要な背景知識を持たない者にとって、この書物の大部分は退屈極まりなく、読んでも失望するだけである。魅力的な章句はいくつかあり、さまざまな恐怖小説に引用されてもいるが、ほとんどはひどく曖昧なヒンドゥー語の詩の翻訳とありふれた哲学書を混ぜ合わせたようなもので、首尾一貫していない。
 ただし読み方を知っている者ならば――適切な質問をするためにはその他ほとんどの質問の答を知っている必要があるように――内容を理解することができる。また適切な読み方で解けばイステの歌はすべての偉大な宗教の根本的な教義を肯定するものである。
 アドゥムブラリについての記述がある。

……これらはアドゥムブラリにほかならず、この生ける影は信じがたき力と悪意を備え、われらの知る時間と空間の法則に縛られることなし。彼らが楽しみとするところは、他の世界に住むものに恐るべき罠と種々の幻影をしかけ、他の世界に住むものを彼らの領域に引き入れることなり……
……さらに恐るべきは、彼らがほかの世界や次元に送りこむ探求者であり、いかなる世界や次元であれ、彼らはその住民の姿に似た、信じがたき力を持つ探求者をつくりあげて送りこむ……
……これら探求者を看破できるのは達人のみにて、達人の鋭き目には、彼らの姿や動きの完璧さ、尋常ならざる振舞い、異質なオーラと力が、探求者の歴然たる徴なり……
……聖人ジャルカナーンが語るには、これら探求者の一人がナイアグホグアの神官七名をたぶらかし、催眠の術くらべにひきこみたることあり。ジャルカナーンの言によれば、二名が罠にかかり、アドゥムブラリの世界に送りこまれ、影の生物に襲われたる後に死体がもどされたるとや……
……いかさま面妖なるは死体のありさまにて、一滴の体液とてないにもかかわらず、死体にはいささかの傷もなし。されどこのうえなく怖ろしきは、閉じることなき目と不気味に輝く斑紋にして、目は彼方を凝視しているかのごとくに見え、全身を覆う奇妙な斑紋はうごめくことをやめず……


イスラムの琴 Qanoon-e-Islam
 イスラムのカノーン。アブドゥル・アルハザード著、アル・アジフのこと。
 美麗な豪華本。


異世界の監視者 The Watchers on the Other Side
 英国の作家ネイランド・コラムが著した長編小説。古代の伝説に基づく怪奇幻想的な作品で、クトゥルー信仰と酷似する。


イゾーラ
 ウィリアム・ラーキンズの第二作。神秘的な長編小説。


偉大なる秘術(偉大なる秘密) Ars Magna et Ultima
 大いなる秘法、普遍的魔術とも。
 十三世紀の錬金術師レイモンド・ラリー(ライムンドゥス・ルルス)著。実在する。イスラム教徒を改宗させる目的で書かれたという。


古の鍵 Elder Key
 詳細不明。世界に二部しか現存しないといわれる。イオドを召喚する呪文についての記述がある。暗号文書らしい。


イブの石柱
 イブの廃墟の傍らにあるぼろぼろの石柱に彫られたもの。ゲフの折れた石柱に読み取れる文字よりもさらに古い奇妙な楔形の文字で記されており、その言語は地球上の全ての言語の原型であるイブの言葉である。
 かつてイブに住んでいた者のことや、今はなきサルナスの住人のこと、サルナスの人々がイブの者どもにもたらした破壊のこと、それ故にサルナスがイブの者どもの守護神達により蒙った悲劇のこと、イブの滅亡とその姉妹都市ル=イブのことが記されている。

イブは去りぬ。されど神々は生き続けるべし。世の果てに、ヅィンメリアの野蛮なる地の地底に沈む姉妹都市あり。その都に今も彼の人びとは栄ゆるなり。彼処にて神々は崇められるべし。ク・リトル・リトルの来たるその日まで……。


イングランドの大聖堂
 ジェイムズ著。


インドの秘教と秘伝と迷信
 オマーン著。


隠蔽されしものの書 Book of Hidden Things
 詳細不明。暗黒の〈無名のもの〉についての記述がある。


ウーレイ・アダンの襲来
 詳細不明。ラヴクラフトがその書簡の中でこれの発表を待ちかねていると記している。


ヴァークリイ谷 The Vale of Berkeley
 ウィルシャー著。ヴァークリイに関する書物。


ウィアード・テールズ Weird Tales
 1923年に創刊されたアメリカのパルプ雑誌。1954年9月号を以て廃刊。
 創刊から1924年4月号までエドウィン・ベアード、1924年5月号から1940年3月号までファーンズワース・ライトが編集長を務め、1940年4月号から最終号までは『ショート・ストーリーズ』のドロシー・マクルレイスが編集長を兼任した。
 ハワード・フィリップス・ラヴクラフト、クラーク・アシュトン・スミス、ロバート・ブロック、ロバート・アーヴィン・ハワード、フリッツ・ライバー、ヘンリイ・カットナー、オーガスト・ダーレスらの作品が掲載された。ただし後に名作と呼ばれるラヴクラフトの『狂気の山脈にて』『インスマスを覆う影』『クトゥルフの呼び声』、スミスのハイパーボリアを舞台としたヒロイック・ファンタジーはライトにより買取を断られた。


ウイリアム・ブラッドフォードの記述
 題名不明。英領プリマスの歴史に関する最初のアメリカ移住者の一人で第二代総督だったウイリアム・ブラッドフォードの記述。

 こののち、異教に深く心酔することで、民衆は極度の放縦におちいり、自堕落な生活に耽るようになった。そしてモートンは〈混沌の王〉となり、神を敬わぬ者たちの学校を、一時期ではあるが開きもした。さらにその後、彼らが手にしていた財産をインディアンたちとの物々交換にあてて数多くの取り引きをおこない、穀物酒や郷土のアルコール類を大量に入手し、それらをがぶ飲みし酔いどれることで日々を無為に過ごすこととなったのである……くわえて彼らはメイポールを建て、毎日、みなで酔っては踊りの生活をおくり、インディアンの女たちを宴に誘ってもいた。ともに踊り跳ねまわるありさまは、まるで大勢の妖精たちが群れ集う姿、もしくは復讐の女神たちの一群に見えた。それは不浄な習慣であった。だれもがまったく別の種族に生まれ変わったかのようで、ローマの花と豊穣の神フローラの祝いを開き、おぞましきバッカス神に由来する獣じみた宴を繰り広げていたのだ。モートンもほかの者と同じで、無意味にしか思えない異端のメイポールにもたれながら、淫らな描写やひとびとに対する悪口や中傷を取り混ぜて、さまざまな韻や節をもって詩作にはげんでいた。さらに彼らは自分たちが暮らしている場所の名も変えてしまった。マウント・ウォラストンと呼ぶかわりに、これからずっと先まで愉快な生活がつづくようにと願いをこめてか、《メリー・マウント》という地名を新たにつくりだしたのだ。しかし、こんなことは長くはつづかず、モートンが英国に連絡を取ってからのち……ほどなくして偉大なる紳士として知られるジョン・エンディコットがこの地に駆けつけ、マサチューセッツ植民地における新たな実効力のある規範を設け、事態の収拾をはかろうとしたのだった。彼は、問題が発生している地域をひとつひとつまわっては、異教の原因であるメイポールを打ち壊し、ひとびとの不信心をいさめ、神のご意志にそった正しき道を模索せよと警告した。これにより、直接に警告をうけた者もそうでない者もみな考えかたを改め、ふたたび地名を変えることにした。新しい名は《マウント・ダゴン》であった


ヴォイニッチ写本 Voynich manuscript
 古書籍商ウィルフレッド・M・ヴォイニッチがイタリアの古城に保管されていた古い樽の中から発見し、一九一二年にアメリカに持ち込まれた謎めいた写本。
 ロジャー・ベーコンの著作であるとされ、全文が暗号で書かれている。その正体はネクロノミコンであるともいわれる。


失われた帝国の遺産 Remnants of Lost Empires
 ドストマンの著書。一八〇九年にベルリンのドラーヘンハウス・プレスから刊行された。
 黒い石に関する言及がわずかになされているという。


蛆の館 The House of the Worm
 パートリッジヴィル在住の短編小説家ハワードの短編小説。


英國海洋傅
 ジョン・ロフトソン著。非常な稀覯書で、ラテン語原典からの英語写本をアンリ‐ローラン・ド・マリニーが所蔵している。
 古代ノルウェーの王達にまつわる英雄譚およびイギリス海賊の冒険談を書き綴ったもの。
 スカルダボルグの〈血まみれ斧〉ラグナールの石についての記述がある。

スカルダボルグに対し我ら情けは掛けず、
奪い焼きつくすに容赦はせず。
ホイットビィめざし波越えゆき、
敵の戦艦一艘目に留まりき。
そこにスカルダボルグの者らの罠あり。
我が大いなる船団、潜みし網に掛かり、
自軍の櫂、たちまち縺れ乱る。
是非もなく、いざ敵をば薙ぎ刈る。
怖気づく我が兵一人とてなく、
楯振りあげ、つがえる矢怒気に戦慄く。
かくて激戦の火蓋切られ、
戦斧も剣もことごとく血に濡られ……

『血に染まりし鎧纏いて立ちはだかり、
我が兵の骨肉を浴びて不敵に嗤う輩あり。
彼奴こそ海賊の長ならん。
グドロッドよ、あの者名をなんと云わん?』

将、答えて曰く、

『魔女ヒルドゥルスレイフの子、ラグナールと聞く。
長として海蛇丸に指揮をば敷く。
人呼んで〈血まみれ斧〉の悪名轟けり。
而して、艫に女人一人立てり。
あれこそラップランドの妖術極めし魔女にして、
ラグナールの母なり。今立ちはだかりて、
〈血の海を越えて我が子の許に来れ〉
と、アサの神々に力を請うものなれ』
『魔女もその子も余は知らぬ。
なれどグドロッドよ、相手には足らぬ。
彼奴めが十足り、血染めの斧で寄ろうとも、
余が直ちに薙ぎ倒してくれようとも!』

流血淋漓たる海蛇丸の艦上にて、
兜を脱ぎて甲板に投げ打ちて、
若きラグナール猛々しく雄叫びす
竜頭の船首、敵陣を目指す。
なれど勇者の金色の髪なびき、
一筋の矢、海面の上を飛び来りき。
天地も凍てつく恐ろしき苦鳴あがらん。
鉄の鏃、勇者の頭蓋をば貫かん――

竜頭を船首に海蛇を艫に戴き、
血に盲いし王エイステイン、憤激を擁き、
港に入りて市をば奪いたり。
而してスカルダボルグを焼き尽くしたり。
灰色魔女ヒルドゥスレイフ、アサの神々を喚びて、
己が声を天空にまで轟かせて、
嵐を起こし雷神トールに稲妻の刃を光らせしめる。
その渦中にて魔女、森の原野に陣をば占める。
岩の裂け目に土にて塚を盛る。
バウタの石を墓として、ラグナールの霊を守る。
その石に北方の古き魔法文字を刻まん。
魔女、己が子の墓を護りて呪わん。
石は森の四阿に囲わる。
時を経ずして魔女自らもみまかる。
海蛇丸の手下らは嘆きうろたえ、
亡き子のわきに魔女たる母を横たえ……


エイバル・ハロップの手記
 色々な書物から筆写したものを人皮で装丁したもの。

 外世界よりヨグ=ソトース呼びいだすためには、日輪第五の宮に入りて、鎮星の三分一対座に位置するときを待ち、炎の五芒星形を描き、第九の詩を三度唱え、ヨグ=ソトースが守護者なる門の彼方の外なる空間にて、聖十字架頌栄日と万聖節前夜の儀式を繰返すべし。ヨグ=ソトースをもたらさず、成長を望む類似のものをもたらすこともあり、さらにヨグ=ソトース他の血を得ざれば、汝自身の血を求むることもあり。かるがゆえに、これらのことには賢明になるべし。(『異本』の七十七ページ参照)

 旧支配者につき、彼等門にて待ち構え、其の門こそなべての空間にして時間なりと誌されけり。何となれば、彼等時間と空間の何たるかを知らねど、現れずとも、なべての時間と空間に存在すればなり。彼等の内には形状、特徴、本来の形、貌を変えらるる者あり、彼等にとりてはいたるところが門なりけん。されど余の開かんとした第一の門は砂漠の下なる円柱都市アイレムにありき。しかれども人が禁断の言葉を三度口に致さば、あらしむるべき門たちどころに現れ、門を抜けて来るべき者ら到来致さん。そはドール、忌むべきミ=ゴ、トゥチョ=トゥチョ人、深きものども、ガグ、夜の魍魎、ショゴス、ヴーアミ、凍てつく荒野のカダスとレン高原を渡りしシャンタクなり。旧神の子等はすべて似たるも、大いなるイースの種族と旧支配者、意見をたがえて旧神に刃向い、旧支配者地球を掌中に収むるかたわら、大いなる種族イースより戻りて、いま地球を歩みおる者には未だ知られざる、時間を先に進む地球の土地に在所を定め、先に自らを駆り立てたる風と声が再び来り、風の上を歩みしもの、地球及び星辰の間なる空間を永久に覆いつくさん時を待ちたり。


エイボンの書 Liver Ivonis / Liver d’Eibon / the Book of Eibon
 ヒューペルボリアの半島ムー・トゥーランのツァトゥグア(ゾタクア)を崇拝した偉大な魔法使いエイボンが記した。翻訳につぐ翻訳がかさねられ、後にギリシア語に訳され、アヴェロワーニュのガスパール・ドゥ・ノルドが中世フランス語に翻訳した。
 ツァトゥグアとヨグ=ソトースの忘れ去られた伝承や最古の呪文が記されており、『暗澹たる不気味な神話、邪悪かつ深遠な呪文、儀式、典礼の一大集大成』といわれる。ネクロノミコンに欠落している知識が数多く記されている。特にツァトゥグアやヨグ=ソトースに関する記述が目立つという。
 生物を石に変える薬の調合法が記されている。ムー・トゥーランの魔術師ゾン・メザマレックの所有していた前世に遡る不透明な水晶にふれたくだりがある。凶運の星シャッガイの末路について記されている。
 ムー・トゥーランの極海のほとりに住む魔道師エヴァグがルリム・シャイコースという神の住む氷の大山イイーキルスに捕らわれ、恐怖のうちにルリム・シャイコースを殺した顛末が記されている。これはあまりに恐ろしいことのため、海原にさすらうエヴァグの魂魄を口寄せしたエイボンはいくつかのことを伏せて書き記した。(それによればエヴァグと共に捕らわれていたドーニとウクス・ロドハンは旧神の祭祀に詳しいらしいが、初期の神話作品では旧神と旧支配者が混同されているため正確なところは不明)
 ミスカトニック大学付属図書館に保管されている。

……ウボ=サスラは始原にして終末なり。星辰の世界よりゾタクア、ヨグ=ソトース、クトゥルー来たれるまえより、新生なりたる地球の蒸気発する沼に棲み、頭手足なき塊なれど、定まりし形とてなき灰色の原初の蠑螈、ならびに地球上生物の不気味なる原型を生み落としたり……地球上の生物はなべて、大いなる時の輪廻のはてに、ウボ=サスラが元に帰するという。

 この魔道士、あまたの魔術師の中でも強大な力をもち、眼球を思わせる両端のややひしゃげた不透明な石を見つけ、そのなかをのぞけば、地球の過去の姿がさまざまにたちあらわれたばかりか、他から生まれたものではない自存する源、ウボ=サスラが、蒸気を上げる軟泥のただなかにて脹れあがり泡立つ巨体を横たえた、地球の劫初のありさまさえ目にすることができた……しかし目にしたものについて、ゾン・メザマレックはほとんど記録らしいものをのこさず、まもなく不可解にも姿を消して、その後は不透明な水晶も失われたという。


英雄伝
 プルータルコス著。古典的史書。


X線
 シャール著。


エリック・マーシュの文書
 謎多きビルマ探検の唯一の生還者であり、その直後に死亡したエリック・マーシュによる文書。ビルマ探検から30年後に出版された。
 エリック・マーシュがサン高原の緑岩都市アラオザルにてロイガーとツァールの復活を目論むトゥチョ=トゥチョ人に囚われ、同じく囚われていたフォー・ラン博士が呼び寄せた<星の戦士>および<古の者>によってアラオザルが破壊され、サン高原から数マイル離れた山西省バンカ村近くで目覚めるまでの記録。


エルトダウン・シャーズ Eltdown Shards
 エルトダウン陶片とも。英国南部エルトダウン近郊の砂利採石場で三畳紀初期の地層から出土した粘土板群に刻まれていた古代文字をサセックスの牧師、アーサー・ブルック・ウィンタース=ホールが訳して小冊子として公刊したもの。一九一二年刊。
 粘土板は全部で二十三あり、形も大きさも様々で鉄のように硬く灰白色をしており、アメリカ中西部のベイロン大学博物館に保管されている。
 イースの大いなる種族が残した書物を翻訳したもの。時空をよぎる途方もない旅の全記録が記されている。『時間からの影』ではオーストラリアの砂漠の下、大いなる種族の遺跡の図書館に本として保管されている。
 知識を守るものに関する言及がある。
 円盤を内蔵する水晶の球体についての言及がある。というのも、その水晶球は我々が住む銀河とは別の銀河に住みその居住可能な惑星の全てに殖民して強大な帝国を形成している芋虫状の生物が別銀河への侵略のために送ったものであり、その機能とは光と注視によって芋虫生物と水晶球を起動した者の精神を入れ替えるというもので、別の方法で時空を超越したイースの大いなる種族が封印したためである。

 伝うるにあり、古えの昔、無敵の魔道師オム・オリス、巧妙なる罠と闇の魔術もて悪魔アヴァロスに挑みしと。かかるはアヴァロス、さながら生あるが如く這い、山林を食らい、南なる地にてさえも肥ゆる氷と雪にて大地を汚ししが故。悪魔との闘い、その行方は知られず。そのかみの魔道師達は予言せり、アヴァロスの其れと見分け難かれば、大いなる熱なくして滅ぼされることなしと。その意、悟られずといえども、いずくの時にか是れあらん。おゝ、今まさに氷原は縮み、消え、疾く去り、しかして大地はことごとく麗花なり。


エルトダウン陶片 Eltdown Shards
 →エルトダウン・シャーズ


大いなる鍵
 →古の鍵


大いなる秘法 Ars Magna et Ultima
 普遍的魔術、偉大なる秘術、偉大なる秘密とも。
 十三世紀の錬金術師レイモンド・ラリー(ライムンドゥス・ルルス)の著書。実在する。イスラム教徒を改宗させる目的で書かれたという。


オデュッセイア
 ホメロス著。ラザラス・ジョン・ヒースの蔵書にあったものにはオデュッセウスがセイレーネスから逃れる場面に下線が引いてあった。


オルラ
 モーパッサン著。




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